【ドラフト舞台裏】日刊スポーツが1年で最もにぎやかな日…前後の群像をスケッチ

今年もプロ野球ドラフト会議が行われた。抽選あり、サプライズあり、まさかの「指名なし」ありの悲喜こもごも。日刊スポーツ社内も、1年間の中でも特に熱気が高まる1日。アマチュア野球担当として追った24年ドラフトの舞台裏ドキュメントをお届けします。

プロ野球

■「あぁ、お久しぶりです」

大勢の中にいても、がっちりした上半身&日焼けした顔で、プロ野球のスカウト陣はくっきりとその存在が浮かび上がる。

東京6大学野球が行われる神宮球場のネット裏、中日の八木智哉スカウト(40)も目立っていた。

「こんにちは」

「あぁ、お久しぶりです」

たしか夏以来のはずだ。山梨・甲府の小瀬球場で会った。5回裏の小休憩、あまりに暑くて場外でかき氷(マンゴー味)にかじりついていたら目が合って、笑われた。

5年前にはお互い「佐々木朗希担当」として、東北でよく会った。岩手・野田村の球場にたがいに早朝に着きすぎて、外野の芝生で野球とはほとんど関係ない雑談をしたのが懐かしい。

「どうっすか、ドラフト取材?」

「なんか、たくさんいますよね、1位候補」

足元には大きなスーツケースが。八木スカウトは北海道も担当エリアだ。「札幌は昨日4度ですよ。今日こっち、30度ですか?」。大変だ。本当はセイコーマートへの〝評価〟を根掘り葉掘り聞きたいが、そんな悠長な時期でもない。

■「埼玉西武 宗山塁」

ドラフト会議の日は朝5時に目が覚めた。前夜も11時過ぎまで会社にいたのに、気持ちがはやる。

同業他社の先輩が「アマチュア野球担当にとってドラフトはおおみそかみたいなもの」と言った。言い得て妙。慌ただしさは夏の甲子園を超えるかもしれない。

前日までは各方面から電話やラインが殺到しすぎて、どんどん充電が消耗した。嵐の前の静けさか、ドラフト当日はぴたりとやむ。

会議が始まった。フゥっと息をつく場面がいきなりあった。「埼玉西武 宗山塁」。前年までの西武担当記者として、ここは現任とも協議して〝正解〟を報じたかった。

日刊スポーツとしては最終的に宗山の名を1位で報じ、それなりに自信は持っていたものの、実は私は、別の名前を最後の最後まで消せなかった。

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。