辰吉寿以輝の現在地〈13〉【詳報】強豪サウスポーとの流血戦

平成のカリスマ、丈一郎を父に持つ辰吉寿以輝(27=大阪帝拳)。

日本初の親子世界王者につながる道を一途に歩む。

自身2度目となるサウスポー戦は、両者が激しく出血する試合となった。

41勝(27KO)9敗のチャイワット・ブラトクアトック(32=タイ)に、3-0の判定勝利をマークした。

映像配信がないノーTVマッチで、観衆850人が目撃した8ラウンドを詳報する。

ボクシング

飛び散る血

「ノートを盾にして、頭の上に掲げるんだ」

記者になりたてのころ、先輩記者にそう言われた。

ボクシングでは激しい流血戦がある。

リングサイドに記者席がある場合、ロープ際の攻防で選手の血や汗が飛んでくる。

ジョークでも、比喩でもない。

実際に血が飛んできて、パソコンやワイシャツ、ノートに赤い点が残る。

寿以輝の試合を終えて、自分のノートを見た。

やはり血がついていた。

リングサイドでの取材で、辰吉寿以輝の血が飛び散ったノート。左側の赤い点が血の跡

リングサイドでの取材で、辰吉寿以輝の血が飛び散ったノート。左側の赤い点が血の跡

近さを感じる“聖地”

大阪の繁華街、なんばに位置するエディオンアリーナ大阪。

毎年3月に大相撲春場所が行われる第1競技場が地上階、そして地下に800人規模の第2競技場がある。

関東でいえば、後楽園ホールに近い“聖地”に近い。

記者用の机はリングにぴったりと接しており、ジャッジやセコンドの真横にあたる。

1万人規模の大型アリーナ興行では感じられない、リングとの近さを存分に味わえる会場だ。

「寿以輝、くらわせ!」

5月18日、午前10時57分。

寿以輝は妻優さん、2人の子ども、父丈一郎と母るみさん、兄寿希也さんとその家族と一緒に正面入り口に到着した。

ベビーカーで眠る第2子で長男、秀弦(しゅうげん)君(1)のほおをなでて「いってくるわ」と1人で歩き出した。

「寿以輝、くらわせ!」

母るみさんの声を背中で受けて、地下への階段を下りた。

キャリア3倍の危険な相手

プロ17試合目は、強豪サウスポーとの一戦だった。

2022年10月には現在の東洋太平洋スーパーバンタム級王者中嶋一貴を2度もダウンさせている。

吉井会長は「一般的な知名度はないが、業界の人は知っている。この相手に対して本当にやれるのか。強い相手とやらないと。やるやる詐欺ではいけない」

キャリアは寿以輝の3倍以上という歴戦のサウスポー。。

危険な相手だった。

寿以輝は、前日計量で初めてチャイワットと顔を合わせた。

前日計量をクリアした辰吉とチャイワット(撮影・益田一弘)

前日計量をクリアした辰吉とチャイワット(撮影・益田一弘)

「手が長くて、いい体をしている」

そう印象を口にした。

連続KOで沸き立つ会場

寿以輝はメーンイベント。

前座の試合は、派手なKO劇が続いた。

1回、1回、2回、1回、1回で終わった。

寿以輝まで前座5試合で合計24ラウンドがあったが、始まってみれば、わずか6ラウンドで終わった。

試合の映像配信がないために、本来は時間調整の休憩を入れる必要はない。

だが当初の予定よりも、1時間早くもメーンのゴングを迎えそうになった。

吉井会長は15分と10分の休憩を2回挟んで、メインの開始時間を調整した。

KO劇に次ぐKO劇で、会場には興奮した850人。

昭和のにおいがする、応援団ののぼり20本をかき分けて、寿以輝は入場した。

リングサイドに家族

辰吉寿以輝対チャイワット・ブアトクラトック 観戦する辰吉丈一郎氏(右)とるみ夫人(撮影・前岡正明)

辰吉寿以輝対チャイワット・ブアトクラトック 観戦する辰吉丈一郎氏(右)とるみ夫人(撮影・前岡正明)

リングサイドには父と母、そして妻と長女、莉羽(りう、6)ちゃんが座っていた。

そして今後を占うノンタイトル8回戦のゴングが鳴った。

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スポーツ

益田一弘Kazuhiro Masuda

Hiroshima

広島市生まれ。2000年の入社からバトル、相撲、サッカー、野球を担当して、13年からオリンピック担当。
14年ソチ、16年リオデジャネイロを取材して、18年平昌、21年東京は五輪班キャップを務める。東京五輪後に一般スポーツデスク。
大学時代はボクシング部で全日本選手権出場も初戦敗退。アマチュア戦績は21勝(17KO)8敗。