世界一の幸せ、イチロー「人生最高の日」
- 2006年3月22日付けの紙面イメージ
<WBC:日本10−6キューバ>◇2006年3月20日◇決勝◇ペトコパーク
【サンディエゴ(米カリフォルニア州)20日(日本時間21日)】イチロー外野手(32=マリナーズ)が王JAPANを世界の頂点に導いた。第1回の国別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の決勝がペトコパークで行われ、日本はキューバを10−6で下し、初代王者に輝いた。メジャーリーガーが結集した歴史的大会で、日本のリーダー、イチローは1次リーグから全8試合連続安打。2次リーグで韓国に敗れた時は「屈辱的な日」と唇をかんだが、決勝では1点差に迫られた9回に適時打で「人生最高の日」とした。イチローは金メダルと世界一を手に城島が待つマリナーズに合流し、メジャー6年目のシーズンを開始する。
イチローが手にした日の丸が、サンディエゴの夜風に舞った。三塁線に整列したナインから拍手が送られる。誰もが主役と認める男だから、絵になった。イチローは1人1人に声を掛けながら、最後尾から列を進む。先頭の王監督までたどり着くと、固く抱き合った。世界一を祝うように2人は日の丸に包まれた。
最後までイチローがリーダーだった。最大5点あったリードが、徐々に詰め寄られて1点差となった9回表1死一、二塁。是が非でも追加点が欲しい場面でプレッシャーをはねのけた。
イチロー 意地に見えた? 1点が欲しいからですよ。
5回途中から抑えられていたパルマの2球目、内角の79マイル(約126キロ)を右前にはじき返す。送球間に二塁に到達すると、歓喜の三塁側ベンチに向かって誇らしげに胸を張った。火のついた打線はこの回計4点を奪った。思えば、王JAPAN初実戦だった12球団選抜戦の第1打席も痛烈な右前打。最初から最後まで「イチローの日本代表」だった。
日本球界のために、犠牲になる覚悟があった。1度は、あきらめかけた決勝進出。故障してでも、世界一を勝ち取る決意だった。
イチロー 今日はシーズンのこととかは考えていない。選手としてつぶれてはいけないけど、でもそんな気持ちでした。ケガをしようとも、そんなことは関係ない。とにかくやってやるという気持ちでした。
WBCを起爆剤にしたかった。海の向こうから日本の野球人気の低迷を気にかけていた。代表入りを決意したのも、メジャーが参加する真剣勝負になったから。日本で自主トレを続け、2月には古巣オリックスの宮古島キャンプにも参加。米国に渡らず代表チームに合流。日本の強さを知らしめる使命を感じていた。
イチロー 昨年、一昨年と人気がどうなんだと言われてましたけど、こういう大会で、日本の野球は本当に素晴らしいものと、みんなに分かってもらえれば、うれしい。
それだけに強く勝利を渇望した。ヒールと見られることをいとわず、チームを鼓舞し続けた。代表合流の初日に「向こう30年、日本には勝てないなと思わせるような勝ち方をしたい」と発言。韓国などの反感を招いたが、選手個々に責任感を植えつける意図もあった。韓国に2度敗れたが3度目ではね返し、頂点に立った。「野球人生最高の日です。最大の屈辱を味わって、最高の瞬間も味わいました」。
シーズン前の開催になったことなどWBCに残された課題は多いが、09年に予定されている第2回の参加にも前向きだ。
イチロー 野球にとって世界一を決める大会が必要だと思っていたので、この大会をやった意義は大きい。たくさんの問題点がありましたがこの3年間の間に解決していけばいいことだと思う。09年? 声のかかる選手でありたいと思う。
ロッカールームで繰り広げたシャンパンファイトで、上原らから標的にされた。「先輩を敬えよ」と怒ってみせたが、半面うれしくもあった。
イチロー WBCの前後で変わること? 日本のプロ野球の結果が気になるかもしれない。仲間ができたから。
夜が明けた21日からマリナーズに戻る。福岡合宿からちょうど1カ月。イチローの挑戦はハッピーエンドで幕を閉じた。【浜田司】
(2006年3月22日付日刊スポーツ)
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