やんちゃなバイク仲間はなぜ犯罪集団に 「ザ・バイクライダーズ」が描くハーレー集団の真実
1970年は日本にバイカー映画のイメージを決定づける年になった。1月に「イージー・ライダー」が公開。6月には、主演のピーター・フォンダつながりで、製作は3年前になる「ワイルド・エンジェル」が公開された。
「バイカー」は暴力とドラッグの荒くれ集団として、その後もさまざまな作品に脇役として登場した。
29日公開の「ザ・バイクライダーズ」は、そんなバイク集団の内実を誰もが共感しやすい人間ドラマとして描いている。
原案は写真家ダニー・ライアンの「The Bikeriders」。60年代のシカゴに実在したアウトローズ・モーターサイクル・クラブの日常を追った写真集だ。よく知られたヘルス・エンジェルス、バディドスと肩を並べる3大バイク集団の一角だという。
「MUDーマッドー」(12年)などで知られるジェフ・ニコルズ監督は、バイク好きでやんちゃな、愛すべき若者たちが、知らず知らずのうちに犯罪集団に変貌していく過程をていねいに描く。写真家ライアンがファインダー越しに見た彼らが、まさにそこにいるようなリアルなタッチだ。
舞台は65年のシカゴ。良きアメリカの子女然としたキャシーは、ふいに入ったバーで無口な青年ベニーと目が合い。引かれ合う。
ベニーは地元のバイク仲間のリーダー、ジョニーの右腕的な存在だが、感情の赴くままの行動で周囲からははれもののように扱われていた。
ベニーを演じるのが「エルヴィス」(22年)のオースティン・バトラーで、キャシーをイチコロにする憂いをたたえた目に説得力がある。
キャシー役のジョディ・カマーは、ドラマシリーズ「キリング・イヴ」のクールな殺し屋役が頭に浮かぶが、今回もベニーへの直線的な愛と並行して、バイク集団を俯瞰(ふかん)する冷静な女性を好演している。劇中の「語り部」的役割も果たしている。
そして、ジョニー役はトム・ハーディ。リーダーとしての骨太さ、バイク仲間が膨らんで犯罪集団化することへの苦悩-この人の懐の深さを改めて実感させる。
ベニーと安定した家庭を築きたいキャシー。ベニーを後継者にしたいジョニー。だが、両方に深い愛情を抱きながら、誰とも依存し合う関係を気付きたくないベニーはどちらの欲求にも応えようとしない。
この人間関係を軸に、米国社会の急激な変化がバイク集団をも変貌させていく。他集団との抗争、麻薬取引、雇われ殺人、悪意に満ちた新参メンバーによる乗っ取り…。
もともと「バイクに乗らず、その文化の人たちには威圧される気がした」と明かすニコルズ監督だが、取材を進めるに従って彼らに魅入られたという。
ベニーの無垢(むく)な反抗心を象徴に、それが汚れ、破滅へと向かう悲しさに監督は思いを重ねているように見える。
ライディング訓練も重ねたそうだが、バトラーやハーディがヴィンテージバイクで疾走するシーンは、それだけで一見の価値がある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)
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映画のない生活なんて、考えられない。映画は人生を豊かにする--。洋画、邦画とわず、三十数年にわたって映画と制作現場を見つめてきた相原斎記者が、銀幕とそこに関わる人々の魅力を散りばめたコラムです。