【少年野球シリーズ第4弾】シニアの雄 中本牧の76歳怒声には意味がある

リトルシニア日本選手権大会(7月31日~8月5日)で準優勝した中本牧(なかほんもく)リトルシニア(神奈川)は、春の全国選抜大会では優勝。春夏連覇こそならなりませんでしたが、2週間後に開幕した全日本中学野球選手権大会(ジャイアンツカップ=8月19~25日)で優勝しました。前身の大会までさかのぼると2、9年ぶりに中学硬式野球の頂点に立ちました。創設から48年間、チームを率いる村上林吉(りんきち)監督(76)のナインを叱咤する甲高い声は、この夏も響き続けました。令和において「不適切」とも言われそうな監督と、その声を信じて結果を残した選手たちの戦いぶりを紹介します。

その他野球

◆日本リトルシニア中学硬式野球協会 1972年(昭47)に日本リトルシニア協会として設立。「リトルリーグのお兄さん」という意味で、リトルリーグを終えた選手たちが中学生になっても硬式野球を続け、学童野球で軟式を握っていた選手が、硬式野球を始める場所としてスタートした。

2005年(平17)にはリトルリーグと合併し、公益財団法人全日本リトル野球協会に。12年、公益法人制度改革に伴い、リトルリーグと分離しリトルシニア単独の一般財団法人日本リトルシニア中学硬式野球協会を設立した。

チームは年々増え、連盟も関東、関西(四国、中国を含む)から、北海道、東北、信越、東海、九州に広がり、全国で7連盟が558チームが所属している。

今年の日本選手権大会は全国から32チームが参加。神宮球場を主会場に行われた。春は大阪市内で全国選抜大会が行われる。

出身のプロ野球選手は多く、ドジャース大谷翔平は一関リトルシニア(岩手)に所属した。中本牧リトルシニアの主なOBは元オリックス斉藤秀光氏、元中日高橋光信氏、元巨人斉藤宣之氏、中日森野将彦コーチ、DeNA小池正晃コーチ、楽天渡辺佳明、西武渡部健人ら。

ジャイアンツカップに優勝して東京ドームで胴上げされる中本牧シニアの村上監督

ジャイアンツカップに優勝して東京ドームで胴上げされる中本牧シニアの村上監督

ボーイズのトップに勝った

ジャイアンツカップは中学硬式野球の5団体(リトルシニア、ボーイズリーグ、ヤングリーグ、ポニーリーグ、フレッシュリーグ)の垣根を外し、各地区大会を勝ち抜いてきた32チームによるトーナメント。村上監督は今夏のボーイズリーグの全国大会で準優勝した愛知名港ボーイズ(愛知)と激突する準々決勝が大きなヤマ場だと考えていた。

ただし、試合前のベンチになかなか姿を見せなかった。シートノックなど準備はコーチ陣に任せていれば問題ない。落ち着き払って決戦を迎えたかに思えたが、2回表の攻撃前に、甲高い声が響く。詳しい内容は聞き取れなかったが、1回表に1四球を選んだものの、2者がフライを打ち上げた淡泊な攻撃から、「ふわっ」としたチームの雰囲気を感じ取ったようだ。

その回、1死三塁の好機をつかむと、8番陶山暖(3年)が粘り強くファウルを続け、難しいコースを右前に運び先制した。先発左腕の鈴木陽仁(3年)が三振の山を築くうちに、4回にも下位打線がつながり2点を追加。6回から救援の左腕小林鉄三郎(3年)も走者こそ背負ったが、無失点に抑え快勝した。

中本牧シニアが誇る左腕コンビの「背番号1」鈴木陽仁

中本牧シニアが誇る左腕コンビの「背番号1」鈴木陽仁

背番号10小林鉄三郎のダイナミックなフォーム。この2年、中本牧投手陣を2人が支えた

背番号10小林鉄三郎のダイナミックなフォーム。この2年、中本牧投手陣を2人が支えた

怒ると気合の違い

怒ってばかりの印象のある村上監督だが、この試合後は「(今大会に出場する)ボーイズのトップに勝ったからな」とご機嫌だった。

試合のポイントとして、6番三塁に起用した2年生の門間一颯(いぶき)が前日から5安打と固め打ちし、守備でも好プレーを見せたのを喜んだ。「あいつはいい時は打撃も守備もまとめて結果を出せる。でも1つだめだと全部だめになっちゃうからね」。

試合前にベンチに不在だったことを問うと「ベンチにいると怒りたくなっちゃうからね。できるだけ近づかないようにしている」と笑った。これだけ上機嫌なら…と期待して、いつも思っていることを聞いた。

――最近の中学生に怒ってばかりだと、言うこと聞かないんじゃないですか

村上監督 怒るっていうのは、自分の悔しい思いをぶつけてしまうのを言うんだよ。気合を入れるのと怒るのは違うんだよ。いろいろやり方はあるし、怒ったらいけない時代だから、気持ちを入れてやるんだよ。

ジャイアンツカップ決勝は我慢の時間が続いた

ジャイアンツカップ決勝は我慢の時間が続いた

村上監督のすべての甲高い声をチェックしているわけではないが、ベンチ裏の通路に反響して、記者席やカメラマン席まで聞こえてくる数々の叱咤激励を思い起こすと、野球のプレー上の失敗よりも、マナーや振る舞いに対してが多いようだ。村上監督の「気持ちを入れる」とは「気配りをさせる」とも言い換えられる。

例えば、今夏の日本選手権、試合前のあいさつに飛び出すため、並んでいる選手たちは、気持ちが入りすぎるのか、前のめりになっていき、自然に列が曲がっていく。

本文残り73% (4746文字/6468文字)

編集委員

久我悟Satoru Kuga

Okayama

1967年生まれ、岡山県出身。1990年入社。
整理部を経て93年秋から芸能記者、98年秋から野球記者に。西武、メジャーリーグ、高校野球などを取材して、2005年に球団1年目の楽天の97敗を見届けたのを最後に芸能デスクに。
静岡支局長、文化社会部長を務め、最近は中学硬式野球の特集ページを編集している。