【少年野球特集第7弾】世田谷西シニアが試合後に作った2つの円陣から

世田谷西リトルシニアは、創立から29年間、好成績を残し続け、高校野球ですぐに活躍する選手も数多い。今年の3学年の部員数156人は日本最大級を誇る、関東地方だけでなく日本の中学硬式野球の中心チームだ。リトルシニア日本選手権2連覇を達成した一方、連覇を狙ったジャイアンツカップは8強で姿を消し、リトルシニア代表として臨んだエイジェックカップ中学硬式野球グランドチャンピオンシリーズ(エイジェックCGS)は2年連続で初戦敗退した。今夏の世田谷西の戦いぶりをリポートする。

その他野球

エイジェックCGS初戦敗退

エイジェックCGSの初戦敗退後、世田谷西の吉田監督は円陣を組み、ナインに語りかけた

エイジェックCGSの初戦敗退後、世田谷西の吉田監督は円陣を組み、ナインに語りかけた

9月7日、エイジェックCGSの1回戦。世田谷西はヤングリーグ代表の兵庫加古川ヤングに4-6で敗れた。

あいさつを終えると、吉田昌弘監督はナインに円陣を組ませた。第2試合のチームにベンチを明け渡すため、悔しがる間もなくすべての道具を持ち運ばなければならないタイミングだった。それでも、毅然(きぜん)とした表情で、約1分、話しつづけた。

どんな言葉だったのか。

「一昨日の練習から、おや? と思うような表情だったんです。謙虚さが足りない」と厳しかった。

3、4回に相手ミスに乗じて好機を作り、兵庫加古川の長身右腕・松下嵩虎(3年)を攻略して、2点ずつを奪った。

5回表に好投の先発大矢球道(3年)が突然乱れ4安打を浴び同点とされたところで降板。代わった渡辺英亜(3年)が犠飛で勝ち越された。

4回まで無失点に抑えていた世田谷西のエース大矢だったが…

4回まで無失点に抑えていた世田谷西のエース大矢だったが…

その裏、兵庫加古川の2番手の木下兼伸(3年)は松下に比べると、球威のない右腕だった。先頭の4番中村勇斗(3年)が強振したものの三ゴロに倒れる。続く2者も引っ掛けてゴロアウトに倒れた。1点を追う6回裏も、2点差とされた7回裏も先頭打者がヒットで出塁しながら、強振しては凡退を繰り返した。

この日はダブルヘッダーを勝ち抜かない限り、決勝の甲子園球場には進めなかった。第1、3試合目のハードスケジュールを見越して遊撃で初先発させた廣田敦(3年)が2安打するなど、期待以上の結果を残した選手もいた。それでも、つなぐ意思の感じられなかった打線を吉田監督は「謙虚さがない」と厳しく評したのだった。

兵庫加古川5回表1死、同点三塁打を放った植木はガッツポーズ

兵庫加古川5回表1死、同点三塁打を放った植木はガッツポーズ

そして、第3試合の準決勝に先発予定だった左腕の田島翔(3年)の名前を挙げながら「今、一番調子がいい投手をマウンドに上げてやれなかった。監督の責任です」と自らも責めた。

初開催となった昨年も初戦でポニー佐賀ビクトリーに敗れた。その際には甲子園の土を踏めなかった選手たちに対し「甲子園には高校で行ってくれ」と、愛情あふれる言葉を残した。

今年も同じ心境なのだろうか。そう聞くと、少し間を置いて「根っこの部分で謙虚にならないと」と厳しさを崩さなかった。

世田谷西7回裏1死二塁、三ゴロの中村は一塁に頭から滑り込んだがアウトに

世田谷西7回裏1死二塁、三ゴロの中村は一塁に頭から滑り込んだがアウトに

この試合前だった。緑豊かな兵庫・三田市の姫新バスピッキースタジアムの外野でウォーミングアップする選手をみつめながら、「個々に実力があって、華やかな選手が多いでしょ。こういうチームはリーグ戦には強いんですけどね」と笑いながらみつめていた。

朝一番の試合の緊張感からか、動きが少し硬いように感じたぐらいだったが、吉田監督には一発勝負のトーナメントで、精神的なもろさが心配の種だった。

ジャイアンツカップ2回戦の東北楽天戦で三塁打を放つ世田谷西・矢口

ジャイアンツカップ2回戦の東北楽天戦で三塁打を放つ世田谷西・矢口

8月22日、川崎市・等々力球場で行われた直前のジャイアンツカップ準々決勝で青森山田に敗れた。闘志を前面に押し出し、世田谷西を徹底して研究していたことも感じられたという一戦で、2番手で救援したエース大矢が大量失点した。

昨年の同大会の胴上げ投手で、難しい場面を抑え続けてきた右腕の乱調だった。

吉田監督は2年連続夏の2冠を逃したが「トーナメントですし、中学生だからそういうこともあります」と気丈に振り返った。雪辱の機会にしたかったエイジェックCGSだったが、世田谷西には鬼門となってしまった。

日本選手権で中本牧破る

日本選手権準決勝の札幌新琴似戦の1回1死一塁、世田谷西・東は先制2ランを放ち、生還後に「ヨッシャ」

日本選手権準決勝の札幌新琴似戦の1回1死一塁、世田谷西・東は先制2ランを放ち、生還後に「ヨッシャ」

今夏、華やかな選手たちは間違いなく強かった。

8月5日、日本リトルシニア日本選手権決勝は昨年と同じ中本牧との対戦となった。

どちらも1回戦から準決勝まですべてコールドで勝ってきた。横綱同士の激突にも見えるが、この世代のチームは春の全国選抜大会準々決勝で対戦。中本牧が世田谷西を破り、そのまま全国制覇を達成。その後公式戦は負けなし。鈴木陽仁、小林鉄三郎の左腕コンビは強力で、「うちは中本牧に勝てるチームではなく、中本牧と当たるまで負けないのを目標にしているチーム」という吉田監督の言葉は謙遜ではなく、本音にも聞こえた。

もし、世田谷西に分があるとしたら、前日の準決勝で札幌新琴似の渡部瑛太(3年)と対戦したことだと思っていた。

本文残り69% (4150文字/5990文字)

編集委員

久我悟Satoru Kuga

Okayama

1967年生まれ、岡山県出身。1990年入社。
整理部を経て93年秋から芸能記者、98年秋から野球記者に。西武、メジャーリーグ、高校野球などを取材して、2005年に球団1年目の楽天の97敗を見届けたのを最後に芸能デスクに。
静岡支局長、文化社会部長を務め、最近は中学硬式野球の特集ページを編集している。