【鍵山正和 ~哲~〈6〉】指導に加わったコストナー 進化する「チーム優真」

フィギュアスケート男子で、北京オリンピックで日本史上最年少メダル(個人銀、団体銅)を獲得した鍵山優真(20=オリエンタルバイオ/中京大)。その指導に就く父、鍵山正和コーチ(51)の哲学に迫る連載「鍵山正和 ~哲~」は、第5回、第6回でシーズン前半を振り返ります。第6回では14年ソチ五輪銅メダルのカロリナ・コストナーをコーチに招いた価値、チーム制を敷いた今季の手応えを聞きました。(敬称略)

フィギュア

変わらぬ緊張感

いつものように鼓動が少し早くなる。

試合の規模を問わず、リンクサイドから優真の演技を見守る時はいつも同じだ。

「常にドキドキですよ」

ただ、今季はその緊張感が押し寄せる時に、隣にもう1人のコーチがいた。

新たに名を連ねたコストナーだった。

GPファイナルの公式練習に臨む鍵山。中央は父正和コーチ、右はコストナー・コーチ(2023年12月7日撮影)

GPファイナルの公式練習に臨む鍵山。中央は父正和コーチ、右はコストナー・コーチ(2023年12月7日撮影)

9月のロンバルディア杯から、GPシリーズの2戦、GPファイナル、そして2023年末の全日本選手権(大阪)まで。

正和にとって、優真の滑りを誰かと並んで見る試合が続いたことはなかった。

「どきどきするのは一緒に見てても変わらないんですね」

少し照れたように心情も明かす。同時に、確信を持って言う。

「優真がスケートをうまくなることに関しての心強さはすごく感じてます。1つベストなタイミングだったのかなと思いますね」

コストナーがもたらすもの

疲労骨折寸前だった左足首の故障が判明して、一度立ち止まらざるを得なかった昨季。親子の二人三脚でオリンピックの銀メダルを手にするまで積み上げてきた関係も、新たなフェーズを迎える好機でもあると、父は考えていた。

20歳のタイミング。かねて言ってきた。

「成人にもなる。自分の行動には自分で責任を持ってほしい」

競技にとどまらず、1人の親としても子供の望むこと。

ケガを越えて新たなシーズンに向かう中で、例えとして真っ白なキャンバスに色を描いていくイメージを示していた。筆をどう走らせるかは、より優真に任せたい。そんな希望があった。だからこそ、これまで1対1だったコーチングを1対複数の分担制にした。

リハビリ期には東京まで1人で通い専属のトレーナーに指示を仰ぎ、食事面での改善のために栄養士とも契約を結んだ。

そして、春先から振り付け、スケーティングの指導を受けていたコストナーをコーチに迎えると発表したのは8月だった。

「振り付けに関して僕は玄人ではなかった。やはり技術屋なので、いまはそこをしっかり教え込む事に集中しています。おのおのの専門家に任せることに関しては、そうあるべきだと思いますし、これは進化だと考えています」

シーズンの前半を終えて手応えも十分にある。日常、優真とコストナーのやりとりを見聞きしていると、従来になかった視点が息子に生まれているのをありありと感じられる。今季のSP、フリーを手掛けた振付師のローリー・ニコル、シェイリーン・ボーンの意図を、繰り返し確認し合っている姿を見てきた。

「1つの振りに意味を持たせていく。『こういう雰囲気』でなく、『こういう意味でこの振り付けをしている』という具体性に常に落とし込んでいってますね。カロリナがそれをリピートして教えてくれる。そこの意味合いがたぶん彼の頭の中で消化されているんだと思います」

漠然とした動作はない。

「インプットしないといけないことは増えてきているはずですよね。だけど、彼は頭だけではなくて、体に理解するって言ったらいいのかな、そういうことができてると思いますね。ジャンプなどを教えてても、頭でもちろんまず理解しなきゃいけないんですけど、頭で理解しながら体をすぐに動かすことができるので」

NHK杯男子フリーで演技する鍵山(2023年11月25日撮影)

NHK杯男子フリーで演技する鍵山(2023年11月25日撮影)

優真自身は、こう説明する。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。