【横井ゆは菜〈下〉】スケート人生に区切りはない テレビ局社員として掲げた目標/社会人の今

7月からフィギュアスケートの2024-25年シーズンが幕を開けました。

2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪(オリンピック)を見据えて、多くの有力選手が大事な1年を過ごす一方、フィギュア界から羽ばたき、別の場所で人生を送っている元選手たちがいます。

日刊スポーツで2021年冬に掲載したシリーズ「銀盤に別れを告げた選手たちの今」の第2弾。

シリーズの第3回は、国際大会で活躍し、幅広く独創性の強いプログラムで「氷上のエンターテイナー」として名をはせた横井ゆは菜さん(24)です。2023年4月から名古屋テレビ(メ~テレ)に入社し、選手とは違う立場からスケートに関わり続けています。全2回の後編では現在のスケートとの関わり、そして実現した番組企画の熱い思いを語ってもらいました。

フィギュア

社会人生活を語る横井ゆは菜さん

社会人生活を語る横井ゆは菜さん

内定が出てから揺れた心

―前編では志望動機などをお聞きしました。後編は現在のスケーターとしての関わりを教えてください。内定が出て、2022―2023年が選手生活の最後のシーズンになりましたね。

横井 就職活動が終わって「もう何も考えなくていいからスケートに集中できる!よっしゃー!」って思っていたんですけど。今度は逆に内定をもらったがために「どうせ、やめるんだよな…」みたい気持ちがずっと頭に浮かんできてしまいました。調子も上がらず、練習に身も入らず。決してサボっていたとは思わないんです。サボるまではいかないけど、それまでの身の入り方が全然違くて、ずっとそれこそ地に足がつかないというか。「今これやってるけど…」みたいなのがあって。でも、そもそもメ~テレが(練習拠点の)邦和みなとスポーツ&カルチャーから近いので「やれるかもな」なども考えたりして。

ただ、定期的に内定者の研修があり、スケートではない方と関わると、自分がスケーターであることをその瞬間、忘れるわけですよ。例えば研修が終わってから夜練習があるとするじゃないですか。「ちょっと行くのめんどくさいな」とか。それが定期的にあり、良いことだと思うんです、スケーターじゃない自分にどうせ今後なるから。良いことだと思うんですけど、その時は「自分ってどっちなんだろう…」みたいなのをずっと考えていて。何か、俯瞰(ふかん)で見すぎちゃっていた。もっとがむしゃらにやってたらまた違ったのかもしれないけど。でもこれが悪いかと言われたらまた違うと思うんですけど。そうですね、そんな感じでしたね。

全日本選手権女子SPの演技をする横井(2021年12月23日撮影)

全日本選手権女子SPの演技をする横井(2021年12月23日撮影)

―最後、スケートに対してはどのように向き合って社会人になろうとされましたか。

横井 それで言うと、やっぱり今でも滑ってます。その時は「ケリつけました」と言っていたかもしれないんですけど、多分スケートに関しては区切りつかないんだろうなって今は思ってます。もちろん、選手として結果を残す事はもうないと分かってますけど、ぴたっと「よし、ここから私は社会人です」とかではないだろうなと。「私の中で、これは区切りがつけられるものではないんだろうな」と、今話してても気づきましたね。選手として上を目指せない、分かってるけど、ジャンプが跳べないと悔しい、だったり。最近はダブルアクセル忘れちゃって。私ダブルアクセル好きなんで、それが私の手から離れるのがすっごい嫌で。妹とかにも「どうしよう」って言って、「知らんやん。いらんやん」みたいな(笑い)。でもそれがショック。トリプルはもうしょうがない。でも「ダブルアクセルは跳べとけよ」って自分の中で思うんですね。(※インタビュー後の9月17日に3カ月ぶりに成功)

NHK杯女子フリーで演技する横井ゆは菜(2019年11月23日撮影)

NHK杯女子フリーで演技する横井ゆは菜(2019年11月23日撮影)

―いまはどんなペースで滑っていますか?

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。