中国杯で見た25歳の全米女王が体現する可能性 シニア年齢引き上げの行方を考える

今季からシニアの年齢が17歳以上となったフィギュアスケート界。競技寿命が延びることが期待される中で、各選手の模範となるスケーターがいます。グランプリ(GP)シリーズ第6戦中国杯でGP2連勝を飾ったアンバー・グレン(米国)。全米王者の25歳は、24歳の時に初成功させたトリプルアクセル(3回転半)を操ります。今大会の練習、試合前後の行動からもうかがえた競技に取り組む姿勢。それは日本の選手にとっても、世界のスケーターにとっても、多くの可能性を伝えていると感じました。(敬称略)

フィギュア

中国杯女子フリーの演技をするアンバー・グレン(共同)

中国杯女子フリーの演技をするアンバー・グレン(共同)

千葉百音がうなずいた

グレンがうずくまっていた。

メダリスト会見の会場に足を踏み入れると、ジャージー姿で体を折って小さくなり、ストレッチをしてる背中が目に飛び込んできた。

報道陣用に用意された椅子の後ろ、少しのスペースで、細かい動きを繰り返していた。

フリー演技で優勝を決めた直後だった。

メダリスト会見でポーズを決める左から千葉、グレン、キム(撮影・阿部健吾)

メダリスト会見でポーズを決める左から千葉、グレン、キム(撮影・阿部健吾)

2位となった千葉百音、3位のキム・チェヨンよりも一足先に会見場に着いたのだろう。思えば前日のショートプログラム(SP)でも同じ光景が見られた。その時は気づかずに最後方の椅子に座ると、その背後で足を伸ばしていた。

クールダウン。その重要性は近年のフィギュアスケート界でも、ようやく認知されつつあるが、このような数分を無駄にせずに、丁寧なケアをしているスケーターは珍しい。

筋肉をほぐす道具を持ってウォームアップを行うグレン

筋肉をほぐす道具を持ってウォームアップを行うグレン

入念なウォームアップを行うグレン

入念なウォームアップを行うグレン

優勝会見で質問した。

「今大会で練習、試合の前後に入念なウオームアップ、クールダウンをしている姿を拝見しました、その時間の重要性について教えてください」

こちらの日本語の質問が英語に訳されると、ほほ笑みながらマイクを握った。

「私は25歳で、トリプルアクセルを跳んでいます。ですので、本当にケアが大切。もし(試合がある日の)火曜日に何かが起こっても、幸運なことに、私にはとても優れたチームがいますし、これまでの経験もあるので、対応できます。今季は加えて精神面にも重きを置いています。従来は肉体面でしたが、メンタルスキルを上げたいなと考えています」

ウォームアップでストレッチするグレン

ウォームアップでストレッチするグレン

その隣で聞きながら、うなずくしぐさの千葉百音がいた。

その翌日、一夜明けてその言葉を思い返しながら、首を縦に振っていた意味を教えてくれた。

一夜明け取材で笑顔の千葉

一夜明け取材で笑顔の千葉

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。