高橋大輔が語った スケーター&プロデューサーとして臨む新アイスショー「滑走屋」

プロフィギュアスケーターの高橋大輔(37)がプロデュースするアイスショー「滑走屋」は2月10日にオーヴィジョンアイスアリーナ-で初日を迎えます。6日、都内での全体練習が公開され、選手時代から高橋を取材する阿部健吾が向かいました。企画の立ち上げから人選、選曲など、初めて行った意欲作。低価格、短時間というスタイルも斬新ですが、若手スケーターたちを起用した理由、その思いを感じさせる時間となりました。(敬称略)

フィギュア

「滑走屋」公開練習に臨む高橋大輔(以下、撮影はすべて河田真司)

「滑走屋」公開練習に臨む高橋大輔(以下、撮影はすべて河田真司)

濃密な確認作業

「滑走屋」。背中にカラフルな漢字の文字を背負うおそろいのパーカーを着たスケーターたちが縦に並び、近い距離で向き合っていた。曲が鳴ると、向き合う形で振りが始まり、互いに狭い選手間を擦り抜ける。ただ滑り抜けるのではなく、複雑な動作を交えながら。幾度か確認作業をするうちに、交錯して転倒する選手もいる。

全員が全日本選手権に出場するレベルを持つ国内のトップスケーターたち。転倒でパーカーの背面を氷で真っ白にしながらも、楽しそうに、慣れない動きを繰り返す姿があった。

「最低!」「ごめんさい!」

苦笑して謝ったのは、高橋だった。2列に並んだ一同が交錯して、さらにリンクへと解き放たれていくような演出の最中に、高橋も転倒した。

「滑走屋」公演に向け、高橋大輔(手前)と練習に臨む木科雄登

「滑走屋」公演に向け、高橋大輔(手前)と練習に臨む木科雄登

色は黒で同じだが、1人デザインが違うパーカーを着込んだのは、ショー自体を手掛ける自らの位置を分かり易くするためだろうか。その背中も真っ白になったが、一回りも年の離れた若者たちと同じように、謝りながら、顔をしかめながらも、どこか楽しそう。

「大丈夫?」

そんな風に、1人1人に丁寧に声をかける姿もあった。

振り付けを担当する鈴木がリンクサイドから実演した動きを、高橋が再演し、みなで繰り返していく。そんな光景も度々。

振付担当の鈴木ゆま(左)と打ち合わせする高橋大輔

振付担当の鈴木ゆま(左)と打ち合わせする高橋大輔

リンクの脇に目を向けると、村元哉中が村上佳菜子と、ヒップホップ調にも見れる、細かな動きを合わせている。

聞けば、報道陣に公開されたこの場面は、冒頭、14分も続くオープニングの一部。高橋が入るチーム、村元が入るチーム、それぞれの群舞を確認した後、約2時間の練習の最後に通しで2チームを融合させていた。それでも、まだ曲としては数分。

75分、ノンストップで続くショー。この濃度でブラッシュアップをしていく先に、どんな完成形が見られるのか。こちらも期待感が高まった。

村元哉中(右)の練習を見つめる高橋大輔

村元哉中(右)の練習を見つめる高橋大輔

プロデューサー業の苦楽

激務で体重も少し落ちている。

そんな話を小耳に挟みながら、高橋の転倒も体調による部分も大きそうだなと思い、かつプロデュースの大変さも想像しながら、練習後のインタビュー時間を待った。

「お待たせしました!」

公開練習後、記者の質問に答える高橋大輔

公開練習後、記者の質問に答える高橋大輔

無精ひげ姿、時には背後の壁にもたれそうになり、返答にも「ちょっと待って下さい」と笑顔でしばし思案する時間もあったインタビュー。疲労感はにじみながらも、ただ、終始目は輝き、気力充実を感じさせる約20分の応答となった。

――去年の5月に引退を発表されてから9月までは完全にオフを取られたという話ですが、その時にどういったことを考えられていたか教えてください

高橋 実は元々これをやるつもりはその時はなくてですね。「アイス・エクスプロージョン」をまたやりたいなと思ってたんですけれども、時期とかによって試合の絡みとかもあるので、呼びたいスケーターが呼べないなということで。今年はなしにしようかなっていう思いではいたんですけれども、会場が空いていたっていうところから、福岡ってあまりアイスショーがないので、前回「アイス・エクスプロージョン」を5月にやらせていただいた時にご縁があって、会場も空いているっていうことで、何かできないかなっていう話になって。本当に時間がない中で何ができるかって考えて。海外の選手を呼ぶんじゃなくて、日本人選手だけで、例えば時期的にも国際試合もありますが、出場はしないようなスケーターたちに出てもらえたら、2月でできるんじゃないかなって。それだったら、現役の全日本選手権クラスだったり、大学生だったりを含めて、日本人だけでやれるショーをやってみたいなっていうことで。でも、動き出したのも本当11月ぐらいで、本当にギリギリの中でやってきたんで、すごく大変な部分もあったんですけど。その中で振り付けを、ちょっと新しい試みで、スケーターではない振り付けの方に、メインさんのスケーターさんのスケートナンバー以外を振り付けてもらいたいなと。色々話し合いながら、最終的にこの段階に来たっていう感じです。

――プロデューサーの仕事もされているということで、楽しさもあり、難しさもあると思いますが、今のところは

高橋 いや、楽しいですけど、さすがにこの期間でやるのは結構きつかったですね。年末年始も挟んだので、動けない時期とかもあって、スムーズに行かない部分もたくさんあったりとか。あとは僕もそういうの関わってきてなかったんで、「ここも決めなきゃいけないの」「あ、こんなにも色々あるんだな」っていう発見もあって。本当に楽しい部分もあったりとか、でもしんどいんですけど、やっぱり新しいことを知ることもできるし、それがどんどん形になっていく姿だったりとか。見えてくると、やっぱり面白いなって感じてます。

――パンフレットのデザインなどもこだわられたとお聞きしました

高橋 まず最初、(「滑走屋」という)名前は日本人だけだし、英語表記じゃないものでもいいんじゃないかなって。名前自体はショーの雰囲気を見せるよりは、パフォーマンス集団じゃないですけど、そういう意味合いで取ってもらえるような名前がいいかなって。「滑走屋の○○」みたいな感じのものになっていけばいいなって思いで。チラシなどは「スケートのショーなんですけど、スケートなの?」みたいな感じの、「ちょっと何するんだろう」っていう雰囲気の方向性に持っていきたくて、ああいうチラシになったりとか。パンフレットも、スケートのパンフレットって滑ってる写真があったりとかするんですけど、それを逆に滑らずに全体的にまとめてみたり。ちょっと色々試しでやったりとかで。そこは自分がこういうのがあったらいいなとか、こういうの見てみたいななど、そういう感じで、どんな反応が来るのかなっていう思いで、もうとりあえず自分がやってみたいものを形にしたっていう感じです。なのでスケートだったりとか、他の人にはかなりちょっとめんどくさいことやらせてしまったっていう部分もあるんですけど(笑顔)、それでもみんな心よく協力してくれて。でも素敵なものには仕上がっていると思います。

――例えば、めんどくさいことっておっしゃいましたけど、どんなことを

高橋 わざわざパンフレットの写真を撮ってもらったりとか。あと普通だったらね、3日間とかであれ(ショーは仕上げていくもの)なんですけど、陸でかなり振り付けしてもらうので、それを氷に落としていく時間っていうのもあって。それをもうみんな試合もあったりで集まれないんで、動画を送ってちょっと予習してきてもらったり。東京組の子たちは練習に参加できる方は参加してもらって。今回大人数を使ったりするんで、代役をやってもらったり、そういう負担はかなり大きかったかなと思います。

――アンサンブルスケーターも含めて、直接見に行かれて声をかけられたと思います。イメージとしてこういうスケーターと一緒に滑りたいというものが明確にあって、当てはまった人を選ばれたのですか

高橋 今回はスピード感があるようにって思ったので。スケートがパワフルな、力強いスケートができるような子をピックアップしたんですけど。構想上作ってく上で、結構ダンサブルになってしまって、ダンスも難しくて。でもあんまりそこまで触れ合ってない子もたくさんいたので、大変だとは思うんですけど、ただピックアップした時は、まだこのショーがこういう風になってくるっていうのはわかってない状況だけアップしたので。でも自分の中ではその力強さっていうものを一番重視して、選手は選ばせてもらいました。

――実際に試合もある中で、動画を工夫されて進められてきたと。集まってリハーサルを進めて、やってみた手応えは

本文残り80% (13208文字/16424文字)

スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。