樋口美穂子の世界観が導いたある決断 平金桐の“ラストシーズン”

作品が選手の背中を押す-。世界で戦う選手を輩出し、同時に独自な世界観でさまざまな振り付けも手掛けてきた樋口美穂子コーチ(54)。現役最後と臨んだシーズンで、初めて作品を作ってもらった選手がいました。平金桐(ひらかね・きり)、法政大学主将を務めた22歳です。経緯を聞くと、その出会いが1つの決断の後押しとなっていたことを知りました。(敬称略)

フィギュア

「明法オンアイス」で演技する平金

「明法オンアイス」で演技する平金

珍しいクラブ外選手への振り付け

2月23日、東京・ダイドードリンコアイスアリーナで行われた「明法オンアイス2024」の開演前だった。

平金が、ニコッと笑いながら幾度かうなずいた。

「わかりました!」

こちらの質問の意図をくみ、喜々としてくれる感触に、既にその作品が大きな意味を持っていたことは予期された。

「星野先生が、美穂子先生がコーチになられたばかりの頃の生徒で、とにかく大好きだったのでスケートを続けていたと聞いてます。その関係があって、星野先生が頼んでみたいと提案してくれたんです」

疑問が解けた瞬間だった。

今季の平金のフリー「Angel down」の振付師には「樋口美穂子」の名前があった。

世界選手権での演技前、宇野昌磨(手前)を送り出す樋口美穂子コーチ(2018年3月22日撮影)

世界選手権での演技前、宇野昌磨(手前)を送り出す樋口美穂子コーチ(2018年3月22日撮影)

以前、スケートクラブ「LYS」の生徒以外は、基本的には振り付けることはしないと聞いていた。

理由があった。

「振り付けるということは、例えるなら、みんなは私の作品を買ったんですね。その作品はどうなっても、私はもう売ったから関係ないってなるのが、『うーん』って。うまく言えないんですけど、1年かけて最後にいいものが出来上がるのが私はいいかなと。『さよなら』じゃなくて」

専門的に数多くの作品を作って選手に託す振付師という職業に疑問があるわけではない。言葉を選びながら、あくまでも個人的な感情としての話としてふに落ちた。少しずつ作品が磨かれていく過程を一緒に見ていたい。2022年3月に少人数制のスケートクラブを立ち上げて独立した理由は、そこにもあった。

だからこそ、他クラブの選手のプログラムに携わったことが気になっていた。

結んだのは、平金が高校時代から師事する星野有衣子だった。樋口が20歳で指導者の道に入ってからすぐの生徒。シングル選手時代は全ての作品が樋口に手掛けてもらっていた。

その後、スウェーデンに渡り、シンクロナイズドスケーティングの日本選手の第一人者として世界一も経験し、帰国。いまは神宮アイスアリーナを拠点にし、平金を教える。

縁がつながっていた。

3季ぶり、ラストシーズンだからこそ

平金は昨オフ、星野から提案を受けた。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。