宇野昌磨さんに聞いた 神プログラムへのファンの思い、プロへの熱量

フィギュアスケート日本男子初の世界選手権2連覇を飾り、冬季オリンピック(五輪)で日本勢最多のメダル3個を持つ宇野昌磨さん(26)が5月に現役引退しました。

日刊スポーツ・プレミアムでは「宇野昌磨列伝~ニッカン取材ノートから~」の番外編「あなたが選ぶ神プログラム」を10回にわたり連載してきました。その最終回で、皆様から集まった声を、実際の新聞と同じ紙面制作システムを用いたレイアウトで仕上げたデジタル新聞を制作しました。

宇野さんは9月に千葉・船橋のららアリーナ東京ベイで再演される「ワンピース・オン・アイス~エピソード・オブ・アラバスタ~」に主演のルフィ役で出演します。このたび、昨年の初演作を映画館で鑑賞する上映会での舞台あいさつに潜入。ご本人に紙面を見ていただく機会を頂きました。

これまでと変わらぬ「本心」から始まったインタビューは、プロ生活が始まったいまを真摯に語ってくれる時間となりました。

フィギュア

「率直な感想としては…」

7月9日、「ワンピース・オン・アイス」の特別上映会が行われた東京・有楽町。その後に設けられたインタビュー時間で、この日のために特別に印刷した、その日限りの紙面が机の上に広げられた。

【あなたが選ぶ神プログラム新聞】に寄せられた声を元に製作されたデジタル新聞の見本紙面を前にインタビューに臨む宇野昌磨さん(撮影・小沢裕)

【あなたが選ぶ神プログラム新聞】に寄せられた声を元に製作されたデジタル新聞の見本紙面を前にインタビューに臨む宇野昌磨さん(撮影・小沢裕)

数々の写真と、びっしりと埋まった言葉、言葉、言葉。その1つ1つのファンの思いが、選手生活を滑り抜いてきた宇野さんの道筋を照らすようだ。

宇野さんはしばし、視線を落として読み込んでいった。とてもすぐに読み切れる分量ではない。この日の目的は、その場で読んでもらうのではなく、直接渡すこと。

熟読は後ほどにお願いし、まずは感想から聞いた。

―選手生活を終えられてプロに進むにあたり、選手時代にいろんな作品を残されてこられたと思います。ファンの方にお聞きすると、「1つは選べない」という声が多く、その中でもどうしても選ぶとしたらということで、みなさん悩まれて選ばれたそうです。実際に紙面を見て、どのように感じられますか。

(しばし考える)

宇野 率直な感想としては、僕も今新しくプロになって、新しいプログラムを初めて作って。現役の時に感じていたことは、やっぱりジャンプのために、プログラムはやっぱりおろそかにしなければならないと。これは僕に限らずかもしれませんけれども、全力を出せない。日々の練習もジャンプを跳ぶための体力づくりみたいな位置づけになってしまうことが、もちろんやらないわけじゃないんですけど、そんな日々が結構「嫌だな」と思う時期もありましたし。で、なんでこんな話してるかというと、全力を出してない自分のプログラムというのが、どのプログラムも果たしてそれを全力を出せてないのに、「それが好きですか」と言われたら、僕自身はやはりそこまで心から好きにはなれない。もちろんめちゃめちゃ良い結果が出たプログラムもたくさんあったんですけど もちろんうれしい反面、なにか本当にこの作品を自分が心から愛せたかというのは、そうは思えないというのが正直あります。

だから皆さんがこうやって声をいただけるのはうれしいですし、ただこれを見て思うのは、僕は満足しなかったプログラムとか、「好きじゃない」と言ったプログラムでも、皆さんはそれを見てファンになってくれた方とか、それを見て感動してくださった方がたくさんいるのを目の当たりにすると、あんまりなんか「全然僕はダメです」ですとか、僕は結構そう言ってましたけど(ほほ笑む)、ファンになってくれた、すごいと思ってくれた、好きだったプログラムを本人から否定されるのはちょっと申し訳なかったなという気持ちです、これを見て率直な感想としては。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。