【鍵山正和 ~哲~〈8〉】優真の背中に見えた「オーラ」 ケガからの復帰シーズンを戦い終えて

フィギュアスケート男子で、北京オリンピックで日本史上最年少メダル(個人銀、団体銅)を獲得した鍵山優真(20=オリエンタルバイオ/中京大)。その指導に就く父、鍵山正和コーチ(53)の哲学に迫る連載「鍵山正和 ~哲~」は、第8回、第9回で銀メダルを獲得した3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)から新シーズンへと向かう日々を描きます。大一番を前に優真が取り組んだ練習のすごみ、ケガからの復帰シーズンを終えて心に芽生えた感情を聞きました。(敬称略)

フィギュア

大きく見えた優真の背中

見つめた息子の背中が、あの時のようだった。

2024年3月21日、世界選手権の男子ショートプログラム(SP)は、最終組の6分間練習を終えて、1番滑走の優真は1人リンクに残り、コールを待っていた。

柵越しにその後ろ姿を目の当たりにした瞬間に、2年前が鮮明によみがえった。

北京五輪男子SPの演技を終えキスアンドクライで歓喜の鍵山(右)と父正和さん(2022年2月8日撮影)

北京五輪男子SPの演技を終えキスアンドクライで歓喜の鍵山(右)と父正和さん(2022年2月8日撮影)

北京五輪だった。

「オリンピックの時に、6分間のウオーミングアップが終わって、靴を脱ごうとしてる時に、彼の背中が大きく見えた事がありました。オーラをまとっていると言ったら、ちょっと大げさでしょうけど。でも、なぜか大きく見えるんです。それに『近づいてきたな』って感じました」

ほぼ全休となった前季シーズンからの復帰となった2023―2024年シーズン。その最終盤。父子ともに、患部の状態を最優先しながら、慎重に過ごす1年と見据えていた。

世界選手権に出場するまでがコーチとして描いた最大目標であり、2月の4大陸選手権の優勝で、大きな満足感も得ていた。

息子は違った。

その日、その背中から感じ取った勝利への渇望。勝負に来たスケーターの覚悟。

「けが、アクシデントを乗り越えていった結果、気持ち的にもスケート的には充実した1日1日を過ごしていった中で、彼自身が成長したのではないかなと思います。技術的には手を貸すところはもちろん大きいですが、それ以外のところで何かを指導した覚えは全くないですから」

思い返せば、4大陸選手権を終えてから、特にカナダに早入りしてからの姿は、この日のオーラをまとう準備としてすごみを重ねていく時間になっていた。

「その言葉にはうそがない」

曲は止まらない。

失敗があっても、必ず最後まで通しきる。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。