【鍵山正和 ~哲~〈9〉】学び続けるスケートの奥深さ 指導者として訪れた挑戦の時

フィギュアスケート男子で、北京オリンピックで日本史上最年少メダル(個人銀、団体銅)を獲得した鍵山優真(20=オリエンタルバイオ/中京大)。その指導に就く父、鍵山正和コーチ(53)の哲学に迫る連載「鍵山正和 ~哲~」は、2週にわたり銀メダルを獲得した3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)から新シーズンへと向かう日々を描きます。第9回は、オフシーズンに2人の目標が決まっていく過程を追い、優真が1人暮らしを始めるタイミングで訪れた、指導者としての新たな挑戦の理由を語ります。(敬称略)

フィギュア

第1戦と捉えた6月のアイスショー

公演を重ねても、ずっと4回転フリップだった。

「驚きましたね。最初のうちは、『気分が向いた時はやる』と言っていたから」。

6月28日~30日までKOSE新横浜スケートセンターを会場に、全4公演で行われたアイスショー「ドリーム・オン・アイス」は、前年までと大きく趣を変えていた。

照明はスポットライトが当たるのではなく、通常照明に設定し、グループごとに分け、選手紹介からの6分間練習の時間も設けた。

より競技会に近づけて、新シーズンの新プログラムを観客の前でお披露目する機会としてリニューアルした。

「僕の中では1試合目と捉えていました。オフの期間ですけど、まだシーズンが始まる直前だったんですけど、試合と似たような形で臨めたのは大きかった」

ショートプログラムを披露した優真は、4公演全てで、構成に4回転フリップを組み込んだ。

「『緊張感も全然違った』と言ってましたから。本当に試合と同じような気持ちでできたのでしょう」

選択は任せている。

シニア合宿で創作ダンスを練習する鍵山(2024年7月6日撮影)

シニア合宿で創作ダンスを練習する鍵山(2024年7月6日撮影)

それはこのオフも同じだった。

「彼が初戦からこういう風にしたいんだと聞いた時に、じゃあ練習の組み立て方、計画を立てていくので、それに向けてやっていこうねという感じで話をします。それを実行するための練習の内容は彼が考えます。私は箱を作ってあげるだけで、箱の中身のパズルのピースを作っていく、作っていって当てはめていく作業は彼ですね」

その箱を大きくするための布石は、3月の世界選手権で打っていた。

父に届いたオファー

2月の4大陸選手権で優勝を飾り、指導者としてはシーズンの目標達成に満足感が生まれた。

優真の気持ちとは別の境地で、では世界選手権をどう位置付ければいいかを思案した。

4大陸選手権で優勝し、メダルを手に笑顔を見せる鍵山(2024年2月3日撮影)

4大陸選手権で優勝し、メダルを手に笑顔を見せる鍵山(2024年2月3日撮影)

結果、導きだした結論が「新シーズンの1試合目と考える」だった。

本人の意志とも相互理解を図りながら、そのための鍵が4回転フリップだと踏んでいた。

「4回転フリップとして認められることが彼の中で自信になって、もしステップアウトだったりをしても、次の年の選択肢を持てる。幅を広げていくこと、物理的に得点を増やしていくことは、表現面と並んで、大事な部分ですから」

シーズン最終戦、それも大舞台での跳躍が、次シーズンの土台の1つを形作る。先読みこそ、指導者の資質の1つだろう。

そこで見事な成功を刻んだ。銀メダルという結果以上に、“1試合目”としての価値が大きかった。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。