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OGGIの「毎日がW杯」

OGGIの「毎日がW杯」

荻島弘一(おぎしま・ひろかず):1960年(昭35)東京都出身。84年に入社し、スポーツ部勤務。五輪、サッカーなどを担当して96年からデスク。出版社編集長を経て05年から編集委員として現場取材に戻る。

Vペルシーは新しいフライングダッチマン


 ファンペルシーが空を飛んだ。1次リーグB組のオランダ対スペイン。前回大会決勝の再現という注目の一戦で、オランダ代表のエースFWがスーパーゴールを決めた。0-1で迎えた前半終了間際、ブリントの左クロスに合わせてダイビングヘッド。ボールはトラップしてからのシュートに構える相手GKカシリャスの頭上を抜け、ゴールに吸い込まれた。華麗な同点ゴールに、思わず感嘆の声が出てしまった。

 前回大会優勝国を沈黙させる1発。パスを回され、ゲームを支配されていたオランダを勢いづけた。後半に4ゴールを集める5-1の記録的な大勝にチームを導いた。前回大会決勝は延長を含む120分で1点も奪えず、0-1で3度目の準優勝。スペインに対してリベンジし、オランダの得点力もアピールするゴールラッシュに火を付けた。

 宙を舞うファンペルシーを繰り返し見て、74年大会準決勝のブラジル戦でオランダ代表のクライフが決めたジャンピングボレーを思い出した。クロルの左クロスに低空飛行で右足を合わせた芸術的ゴール。前回優勝国を葬った(スペインは敗退したわけではないけれど)のも、同じだ。

 クライフは「フライングダッチマン」と呼ばれていた。このジャンピングボレーが由来ではなく、74年大会前からの異名。日本では「空飛ぶオランダ人」と訳されるが、実は「さまよえるオランダ人」で、もともとは伝説の幽霊船のこと。ポジションに関係なくピッチ全体に神出鬼没に顔を出すプレースタイルから呼ばれたらしい。

 ファンペルシーも、何でもできるタイプ。ストライカーとして前線に張るだけでなく、中盤まで下がって前線へのパスも巧みだ。ただ、この日は王者スペインに対して徹底的にDFラインの背後を狙った。さまよってはいなかった。

 オランダはスペインを研究し、対策を練っていた。5バックで相手の攻め込むスペースを消し、時にはマンマークに近い形でプレスをかけた。奪ったボールは手数をかけずに2トップのファンペルシーかロッベンへ。前半劣勢になっても自らのゲームプランを貫いたからこそ、ファンペルシーの得点が生まれた。

 前回優勝国が初戦で苦戦をするのは珍しくない。最近10大会で3勝3分け4敗と負け越し。W杯初戦に圧倒的に強いブラジルの2勝を除くと、勝ったのは94年大会のドイツしかいない。世界を制したスタイルが4年間で研究され、対策を立てられるのに対し、優勝国はそれ以上の進化が難しい。まだ1次リーグ突破の可能性は十分あるが、今大会のスペインが苦戦することは間違いなさそうだ。

 オランダは最高の形で悲願の初優勝へスタートを切った。3度決勝に進出して優勝なし。ポジションの概念を破った「トータル・フットボール」で世界中を驚かせたクライフの74年大会でも準優勝だった。そのクライフも、ファンバステンも、ベルカンプもできなかったW杯3大会連続ゴールをオランダ人として初めて達成したファンペルシー。「新しいフライングダッチマン」が、悲願に向けてオレンジ軍団を引っ張る。

















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