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OGGIの「毎日がW杯」
荻島弘一(おぎしま・ひろかず):1960年(昭35)東京都出身。84年に入社し、スポーツ部勤務。五輪、サッカーなどを担当して96年からデスク。出版社編集長を経て05年から編集委員として現場取材に戻る。
実は勝負弱いスペイン 大波乱は言い過ぎ
前回大会優勝のスペインが敗退した。1-5で惨敗したオランダ戦に続き、チリにも0-2と完敗。連覇の夢は開幕わずか1週間でついえた。前回7試合で2だった失点が、今回は2試合で7と守備陣が崩壊。攻撃陣もパスを回してボールを保持するだけで、2試合で奪ったゴールはPKによる1点だけだった。
08年欧州選手権から頂点に立ち続け「欧州勢は欧州以外で優勝できない」「欧州選手権優勝国はW杯に勝てない」というジンクスも次々と破った。バルセロナを主体に分厚い中盤がパスを回して攻める「ポゼッションサッカー」は、世界に影響を与えた。FIFAランクの1位を守り、今大会でも当然のように優勝候補の一角にあがっていた。
しかし、不安があったのも事実。世代交代が進まずに、34歳のシャビやクラブで出場機会を失いつつある33歳のカシリャスら主力選手の衰えを指摘する声もあった。バルセロナの勢いも一時ほどではなく、ポゼッションサッカーの限界もうわさされた。RマドリードとAマドリードが欧州チャンピオンズリーグの決勝に進むなどで、過密日程による疲労も心配された。
ブラジルでの開催も不安視された。高温多湿の気候は、チームの根幹を支える運動量を低下させる。ボールが走りにくい南米の芝はパスサッカーには不向きとも言われた。それが、欧州勢が南米で勝てない大きな理由の1つだからだ。
下馬評も決して高くはなかった。ブックメーカーのオッズも4、5番手。「優勝は難しい」というのが一般的な見方だった。それでも、数々のジンクスを破ってきたスペインに期待する声はあった。ファンの間に「美しい」パスサッカーを再び見たいという思いも強かったのだろう。
とはいえ「大波乱」というのは、少し言い過ぎかとも思う。前回10年大会では06年大会優勝のイタリアが2分け1敗で1次リーグ敗退、02年大会では98年大会を制したフランスが1勝もできずに消えた。66年大会優勝のイングランドも、70年大会はベスト8止まり。ブラジルやドイツ(西ドイツ)など常に上位にくる強豪以外、優勝国は次の大会で意外なほど苦戦している。歴史は繰り返した。
もともと「勝負強い」スペインではなかった。欧州でもトップレベルのクラブを持ち、世界レベルの選手を輩出するが、なぜか代表は勝てず。前回大会で優勝するまでは準決勝進出も1回しかなく「ベスト8の常連」という感じだった。
豪華布陣でも勝負弱いスペイン代表。日本では、アルマダの海戦でイングランド艦隊に敗れたスペイン無敵艦隊に例えられた(最近は負けないことだけが強調されて「無敵艦隊」が使われるけれど)。「何が何でも勝ちにこだわる」ドイツなどと違って、勝負弱さもスペイン代表らしい。
スペインの早すぎる敗退は意外ではあったが、これもW杯。「アジア代表」オーストラリアの敗退も残念だが、ケーヒルのスーパーゴールは強烈な印象を残した。チリやオランダ相手に1歩も引かず、正面から打ち合った姿を、日本代表にも求めたい。
さあ、ギリシャ戦。全員が1つになって相手ゴールを目指してほしい。4年間追いかけてきた「日本らしさ」を世界に示すのは、今しかないのだから。