◆WEB企画
OGGIの「毎日がW杯」
荻島弘一(おぎしま・ひろかず):1960年(昭35)東京都出身。84年に入社し、スポーツ部勤務。五輪、サッカーなどを担当して96年からデスク。出版社編集長を経て05年から編集委員として現場取材に戻る。
帰国した日本代表への温かい出迎えに違和感
決勝トーナメント進出を逃した日本代表が27日、帰国した。無言で歩く選手たちに「お疲れさま」「ありがとう」と、ねぎらいや激励の言葉がかけられた。罵声や厳しい声はほとんどなく、敗退を糾弾するような横断幕もなし。そんな状況は、違和感たっぷりだった。
期待は大きかった。しかし、結果は1勝もできずに1次リーグ敗退。選手たちも批判を受けるのを覚悟で帰国した。大久保は「もっと厳しい声が飛ぶものかと思っていた。送られた声援に驚いた」と話した。予想外の温かい言葉をかけられて、戸惑う選手もいた。
「選手たちは、よくやった」と言うが、そうだろうか。「よくやった」かもしれないが「できなかった」のも事実。「選手だけに責任があるわけではない」なら分かるが「選手に責任はない」というのもおかしな話だ。ピッチの上で戦ったのは選手なのだから。表情も変えずに下を向く選手たちに、トム・クルーズ来日のような「歓迎ぶり」は似合わなかった。
初出場した98年フランス大会とは違う。勝ちにいって、負けた。優勝を目指して、1勝もあげられなかった。期待されながら、期待を裏切った。選手も、関係者も、サポーターも、W杯出場だけでは満足していなかったはずだ。しかし、到着ロビーのムードは「出場できたのだから良かった」という感じだった。
日本代表への関心が、薄れてしまったのかもしれない。5大会連続出場で、日本人もW杯に慣れてしまったのか。4年に1回の「お祭り」になった。渋谷スクランブル交差点の騒ぎを見ていると、別にW杯でなくてもいいようにも思える。勝っても負けても「どうでもいい」のだろう。
今回は、テレビの視聴率も伸びなかった。コートジボワール戦は日曜日の午前中という在宅率が高い時間帯で、かなりの視聴率になると予想されたが、40%台にとどまった。残る2戦も早朝という時間帯もあってかいまひとつだった。
視聴率は、期待値に比例する。「勝てるかも」となれば高くなり、「負けるだろう」なら低くなる。テレビ局は、数字を取るために視聴者をあおる。ネガティブな情報を避けて、「勝てる!」と期待させる。戦略として当然のことだ。今回はゴールデンタイムに特番を組むなど、各局とも「番宣」に力を入れていた。それでも、伸び悩んだ。
日本代表そのものへの関心が薄れているのなら、いくら「勝てそう」と期待しても試合は見ない。W杯で騒ぐのはメディアだけ。視聴者や読者は無関心なのかもしれない。日本代表グッズの売り上げも、伸びていないという。93年発足直後に大ブームとなったJリーグのバブル人気のように、日本代表ブームも落ち着いてしまったのか。
かつて、サポーターは元気だった。罵声やブーイングは当たり前、代表監督解任の署名を集め、日本協会に届けた。「日本代表を強くしたい」「日本のサッカーを盛り上げたい」という熱があった。
罵声を聞きたいわけではない。もちろん、水をかけろというのでもない。それでも、何かが起きれば安心するかもしれない。1番怖いのは、日本代表離れが進むこと、サッカーへの関心が薄れること。そんな心配が、杞憂(きゆう)に終わればいいけれど。