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OGGIの「毎日がW杯」
荻島弘一(おぎしま・ひろかず):1960年(昭35)東京都出身。84年に入社し、スポーツ部勤務。五輪、サッカーなどを担当して96年からデスク。出版社編集長を経て05年から編集委員として現場取材に戻る。
日本のGK「神」になれば奇跡起こせる!?
メッシ、ネイマール、ロッベン、ミュラー…、スター選手が活躍する一方、今大会はGKが目立つ。決勝トーナメント1回戦までの56試合で、マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)は延べ10人。前回の南アフリカ大会は全64試合で5人だけだから、数だけを見てもGKの活躍ぶりが分かる。
ブラジルの猛攻を完封したメキシコのオチョア、ベルギーのシュート16本をセーブした米国のハワード、コスタリカの快進撃を支えるナバスが各2回。FC琉球でプレー経験があるアルジェリアのエムボリ、イタリアの名手ブフォンらもMOMに輝いた。大会の名シーンとしてGKの活躍がテレビで流れることも多い。
「GKの大会」になることは、予想できた。厳しい気候で選手の疲労は激しくなる。芝も含めたピッチ状態が悪いから、パスは通りにくくなる。パスを回すよりは守備からカウンターを狙う「省エネ」サッカーが主流になる。DFの枚数がそろわないうちに攻撃を受ければ、相手FWとGKとの1対1が増える。GKの見せ場が多くなる。
ドイツのノイアーは、決勝トーナメント1回戦のアルジェリア戦で「リベロのように相手の攻撃の芽を摘んだ」と評価された。積極的にエリアを飛び出し、カウンター攻撃に対応した。手を使わなくても、フィールドプレーヤーとしてもトップ級のプレーだった。
伝統的に名GKを数多く輩出するベルギーには、大会屈指と言われるクルトワがいる。まだ22歳だが、11年の代表デビュー以来、決勝トーナメント1回戦の米国戦まで21試合無敗。今大会ここまでは攻められるシーンがあまり多くなかったが、アルゼンチン戦でメッシのシュートを止められるかは見どころになる。
さて、日本のGKはどうだろう。川島は頑張った。決して悪い出来ではなかったし、好セーブもあった。しかし「MOMレベル」かと言えば難しい。失点はいずれも「仕方なかった」範囲だが、もし1点でも「スーパーセーブ」で防いでいれば、状況は変わっていたはずだ(もちろん川島で助かった場面があったのも間違いないけれど)。
飛び抜けたレベルのチームでもない限り、GK1人の力で勝敗が変わることは少なくない。参加国のレベルが均衡した今大会では、そのパフォーマンスが直接勝敗に影響を与えた。決勝トーナメントに進んだチームのGKは大活躍しているし、GKが大きなミスをしたチームは敗退している。
日本はW杯で戦えるレベルまで成長した。ただ「戦える」のと「勝ちきれる」のは違う。勝ちきるためにはもう1つ、何かが足りない。優勝までは難しいかもしれないが、確実に1次リーグ突破を考えるなら、GK強化は現実的。日本サッカー協会は「GKプロジェクト」として99年からGKに特化した強化・育成をしている。体格に優れ、運動能力の高い子どもを鍛えれば、いずれ世界的なGKが誕生するかもしれない。
今大会でGKの存在がさらにクローズアップされるだろう。ノイアーやクルトワに憧れて、GKを目指すこともが増えるかもしれない。イングランドなど欧州に比べ、日本にはGKが尊敬される文化が足りないと思うが、今大会はその意識が変わる機会にもなる。
36年ベルリン五輪で優勝候補のスウェーデンを破った「ベルリンの奇跡」は、GK佐野理平が抜群のポジショニングから相手のシュートを次々と押さえる「神業」を見せた。96年アトランタ五輪、ブラジルを破った「マイアミの奇跡」の時はGK川口の神がかりセーブがあった。日本代表のGKが「神」になれば、再び世界舞台で「奇跡」が起こせるはずだ。