【イチロー大相撲〈35〉】復刻!「力士 夏の絵日記」(下)

日刊スポーツは、2015~2019年にかけて「夏の絵日記」と題した企画をウェブに掲載してきました。力士や親方らに絵日記風の絵を描いてもらい、コメントをいただきました。

この企画はコロナ禍で消滅してしまったので、今回は過去の名作を「復刻版」としてあらためて紹介します。

日付、番付、写真などはすべて当時のものです。

大相撲

夏の必需品

貴景勝関による2017年の作品です。

当時は平幕で、同年初場所で新入幕を果たしたばかりのころでした。

翌年には三役となり、その次の年には大関に昇進しています。

ハンディファンを描いたことには「夏と言えば花火とかもあるけど、一番なくて困るのはこれ。こいつがなかったら夏は乗り越えられない。感謝です」と話していました。

食生活にも、当時から高い意識で向き合っていました。当時の取材には「夏バテはしますよ。それでも肉は欠かさないしエネルギーとなる炭水化物は、うどんやそばなど麺類で補給します」と答えています。

今思えば、その後の出世も納得できるような考え方でした。

リンゴの木と有言実行

2017年に大栄翔関が描いてくれた絵です。

青森県板柳町での巡業で見かけた光景です。リンゴの名産地では、まだ小さいリンゴが、木にたくさんなっていました。

絵の題材として選んだ理由として、当時の大栄翔関は「小さいリンゴがいっぱい、木についていました。こんな小さなリンゴが、あんなにも大きくなるんだな、と。自分も同じように成長したい」と、お手本のようなコメント。

コメントするだけでなく、本当に結果を残していったところも素晴らしい。

当時はまだ平幕で、幕内での勝ち越しは2場所しかなかったころ。この2年半後に三役となり、その1年後には幕内優勝も果たしました。

リンゴのコメントは、有言実行となったのです。

ただし、一番好きな果物は、梨だそうです(当時調べ)。

愛があふれている

前回に引き続き、「夏の絵日記」の巨匠ともいえる玉鷲関の2017年の作品です。

ハートであふれる「愛」。見事なアイデア、デザインセンスです。

「人は、生まれてから死ぬまで『愛』で大きくなるから」と話していたとおり、ロマンチストでもあります。

妻・エルデネビレグさんへの思いも、しっかりと口にします。

「自分の心を分かってくれていて『今日は焼きギョーザが食べたい』と思って帰ると、焼きギョーザをつくってくれている。何が食べたいか分からないなと思って帰ると大抵、新しい料理に挑戦している。愛されていると感じられるのがいい」

あれから7年たちますが、家族を愛する気持ちは今も変わりません。

働き蜂に込めた思い

傑作選ということで、こちらも玉鷲関に2019年に描いてもらった絵です。

当時、玉鷲関は34歳(現在は39歳)。2019年初場所で幕内優勝を果たし、千秋楽に次男エレムンくんが生まれたエピソードはすっかり有名になりました。

蜂を描いた理由については「働き蜂のように頑張るって意味で描いた。2人目の子どもも生まれたから、子どもたちのためにも働かないといけない」と話していました。

その時の言葉どおり、最年長関取として今も健在。この絵日記の3年後には、2度目の幕内優勝まで達成しました。

11月には40歳になりますが、まだまだ衰える気配がありません。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。2023年11月から、日刊スポーツ・プレミアムの3代目編集長。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。 X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで、大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。