玉三郎さんのほかにも、昨年はジャズ・クラリネット奏者の北村英治さんと公演を行ったけれど、いろいろなジャンルの方とコラボすると勉強になるし、とても刺激を受けます。そして、何よりもやっていて楽しい。能や狂言の方とはやったことがなかったけれど、南原さんがライフワークとして狂言に取り組んでいることを知っていた。コラボしたら、とても面白いんじゃないかと思いました。
南原は十数年前からコントと狂言を融合した「現代狂言」に取り組んでいて、毎年のように新作狂言を上演している。
南原さんは本当にまじめにやる人。落語もやっていて、以前、大銀座落語祭に出演していただいた時は「芝浜」をやってくれました。これまで舞台で共演したことがなかったので、楽しみです。
開口一番で南原とも交流のある林家木久蔵が登場し、小朝はネタおろしとなる「徂徠豆腐」と、おなじみの「愛宕山」を演じる。南原は狂言師の野村万蔵と「魚説法」を上演する。お経を知らない漁師あがりの新米の僧が、魚の名前を織り込んで説法をする狂言だ。
能楽堂は独特の雰囲気があって、寄席や劇場とはまったく違います。長い橋がかり(橋状の通路)もあって、落語としてはやりにくいんですが、雰囲気のある空間でのコラボなので、落語ファンだけでなく、狂言が好きな方、多くの方に見てほしいと思っています。
落語には、江戸で能狂言を見て気に入った殿様から、能狂言をやるように命じられた家臣が旅回りの落語家に言われるがまま、でたらめな能狂言を繰り広げる「能狂言」がある。
三遊亭圓生師匠がよくやっていましたが、亡くなった後はやる人が少なくなった。狂言の方に教わりながら、今年中にはやろうと思っています。
2月にはもう1つ、小朝が楽しみにしている興行がある。上野・鈴本演芸場の下席で、大好きな柳家小満ん(82)と「小満んと小朝のたっぷり寄席」と題した特別興行を行う。
昨年4月にも鈴本でやったけれど、小満ん師匠の噺(はなし)を毎日聞けるのが本当にうれしかった。仲入り後に師匠と僕が30分ずつやるんですが、今回も楽しみにしています。
■三遊亭王楽が7代目円楽襲名
6代目が2022年9月に亡くなってから空き名跡だった「円楽」が2年5カ月ぶりに返ってくる。王楽は20日の披露パーティーで7代目円楽となり、26日から襲名披露興行が始まる。
プレッシャーがないか、とよく聞かれるけれど、正直言って、今のところはないんです。一昨年暮れに6代目の遺族から『7代目は王楽に』という遺言を聞いてから、襲名に向けて報告やあいさつ回り、披露目をどうするかの準備などいろいろと動き回ってきたので、プレッシャーを感じる暇、余裕がなかったんです。
5日間、6公演の襲名披露興行には林家木久扇、桂文枝、三遊亭小遊三、春風亭小朝、笑福亭鶴瓶、柳亭市馬、春風亭昇太、立川志の輔、林家正蔵、立川談春、立川志らく、柳家花緑、林家たい平、春風亭一之輔、桂宮治、そして父三遊亭好楽など、協会、一門、東西の垣根を越えた豪華な顔ぶれが日替わりで出演する。
皆さん忙しい人ばかりで、本当に感謝しかありません。バランスよく出ていただけるように、番組作りも僕がやりました。先輩たちにはかわいがっていただきましたが、鶴瓶さんや志の輔さんは(襲名を)泣いて喜んでくれました。
5代目、6代目ともに人気落語家だった。日本テレビ系の人気長寿番組「笑点」にレギュラー出演し、5代目は司会者、6代目は腹黒キャラで多くの人に親しまれた。
僕は王楽のままでいくつもりだったので、襲名は寝耳に水のことでした。6代目には「お前の落語はダメだ」と怒られてばかりで、僕にとっては怖い人だった。でも、「7代目は王楽に」という遺言を知って、それだけ目をかけてくれていたのかと思うと、本当にありがたいです。5代目は円楽という名前を大きくし、6代目は大きいままで亡くなった。僕が7代目円楽となるのは分不相応だと思っていますが、誰も継がずに円楽の名前が忘れられるのは嫌だった。円楽の名前がまだ知られている今が、一番いいタイミングだと思います。
襲名披露興行後は、札幌、大阪、福岡など約30カ所での全国ツアーを予定している。「笑点」でも披露口上を行うという。
落語はもちろんですが、違う土俵、フィールドにも挑戦してみたい。例えば、役者なんかもやってみたいし、バラエティー番組にも出ていきたい。幅も広がるだろうし、自分の芸にも戻ってくる。7代目としてのカラーを磨き上げていければと思っています。今はプレッシャーがないと言ったけれど、披露興行の初日に高座に上がって、めくりに「三遊亭円楽」と出た時に、どんな気持ちになるのか。ちょっとドキドキします。
◆三遊亭王楽(さんゆうてい・おうらく)1977年(昭52)11月7日、東京生まれ。父は三遊亭好楽。駒沢大卒業後の2001年に5代目円楽のもとに入門。父とは兄弟弟子となる。08年にNHK新人演芸大賞の落語部門大賞を受賞。09年に真打ちに昇進した。
○…昨年3月から始まった落語協会の創立100周年を記念したイベントも2月でフィナーレを迎える。2月上席の新宿・末廣亭の昼の部では中入り後に亡き名人たちをしのぶ座談会を開催。中席の浅草演芸ホールの昼の部では古今亭菊之丞のプロデュースによる歌謡ショーが行われ、歌自慢の落語家が集結する。下席の池袋演芸場の昼の部では柳家さん喬会長をはじめ、五街道雲助、春風亭小朝、柳家喬太郎、春風亭一之輔らがそれぞれ日替わりでプロデュースする興行となる。大千秋楽の28日にさん喬会長プロデュースで、落語芸術協会の春風亭昇太会長、上方落語協会の笑福亭仁智会長と3協会の会長がそろい踏みする以外は、当日まで出演者は分からないシークレット公演となる。