ブライアン・ボイタノ氏の今 特別レッスンから見えた姿、明かした現在のスケート界への思い

1988年カルガリー五輪金メダルのブライアン・ボイタノ氏(60)が、アイスショー「ブルーム・オン・アイス」(4月20、21日、木下アカデミー京都アイスアリーナ)を控えた4月9~12日の4日間、京都・宇治市内で、木下アカデミーの練習生らに特別レッスンを行いました。日本では初の試み。1人1人に寄り添いながら知識、技術を伝授する姿に人柄が表れ、練習後の取材では現在のスケート界への率直な思いを明かしました。ボイタノ氏の言葉とともに、練習の様子をお届けします。

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扉の奥から漏れる笑い声

数メートル離れた会議室から、笑い声が漏れ聞こえた。ボイタノ氏による講話が行われている時間。本人から「今日はここまで」とお預けを食らった記者は、少し離れた部屋でカタカタとキーボードを鳴らすことしかできずに、声のする方向を見ながら悶々としていた。

講話するブライアン・ボイタノ氏(右端)(撮影・藤尾明華)

講話するブライアン・ボイタノ氏(右端)(撮影・藤尾明華)

見学させてもらった冒頭約5分のやりとりを、頭の中で再生する。

数十分前のことー。談笑する練習生の待つ会議室に入ってきたボイタノ氏は、椅子に腰掛け、導入となる問いを投げかけた。

「この中でメンタルトレーニングをしている選手はいますか? いたら手を挙げてください」

ポツポツと手が挙がる。自信なさげな様子の選手にほほえみかけながら、方法を聞いていく。

「常に『できる』としか思わないようにしています」

「できると思うと緊張するから、いつも通りと思いながら臨んでいます」

十人十色の回答が返ってくる。彼は、それぞれの言葉に「good」とうなずきながら目に驚きや共感を映し出す。

そして、少しの沈黙―。彼は、次の言葉を待ちわびる選手の期待に応えるように、続けた。

「僕は17歳からメンタルトレーニングを始めました。スケート人生で一番大事なことだったと思います。プレッシャーがかかる場面でもいい演技ができるように。今日はその話をします」

五輪金メダリスト直伝のメンタルトレーニング。会議室から漏れてくる声を聞くに、真っ白な扉の先で、一同の心をつかんでいるようだった。

「僕が習ってきたこと全部を教えたい」

4月10日水曜日。午前11時を迎えた木下アカデミー京都アイスアリーナは、活気に満ちていた。

特別レッスンの2日目。ボイタノ氏は「最初は緊張している様子だった」と言うが、2日目ということもあってか、そんな空気は感じられなかった。

スケーティング30分、ジャンプ1時間、曲かけ+スピン1時間を2グループ。個人レッスンの時間も作りながら1人1人に向き合い、言葉を通して、相手と浮かべる理想形を共有。「僕が習ったこと全部を教えたい」と、土壌が違う現役選手の常識の外側から成長を促した。

アドバイス通りの動きができれば「Yes! Nice!」と手を叩き、うまくいかなかったときはカラッとした大笑いで和ませる。その声に、リンクのあちらこちらで笑顔が咲く。約5時間氷上に立つ60歳の顔にも、疲れは表れなかった。

ボイタノ氏と言えば、片手を頭上に伸ばして跳ぶ得意技「タノジャンプ」。練習中に挑む選手も、続出した。森口澄士や島田高志郎が降りてみせると、ほかの選手も後に続こうと手を伸ばす。バランスを取れず首を傾げる選手に「どれだけ難しいか、これで理解してくれると思う」と悪戯な笑みを浮かべつつ「僕がやってたから。やり方の秘密を教えてできるようになったらその分満足感があるし、楽しい」と喜びいっぱいの表情。自らの名前が由来となる新技に挑戦する今を、選手とともに楽しんだ。

レッスンの内容には、参加選手から感謝の言葉が並んだ。

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スポーツ

竹本穂乃加Honoka Takemoto

Osaka

大阪府泉大津市出身。2022年4月入社。
マスコミ就職を目指して大学で上京するも、卒業後、大阪に舞い戻る。同年5月からスポーツ、芸能などを取材。