フィギュア2024.07.01 11:00

勝部晃多

◆三宅咲綺（みやけ・さき）2002年（平14）11月23日、岡山県倉敷市生まれ。7歳の時に競技を開始。岡山理科大付属高2年時の2019年全日本選手権で12位。岡山理科大に進学し、坂本花織の勧めで2022年春に神戸クラブへ加入。移籍1年目の2022年の全日本選手権ではSPで自己最高の66.29点を記録し5位発進。2023年10月の中四国九州選手権で3連覇を達成。同月の西日本選手権では自己ベストとなる合計179.03点で2位となり、3年連続で全日本選手権に出場。シーズン後には高橋大輔のアイスショー「滑走屋」にも出演。現在は岡山と神戸を行き来する生活を送る。155センチ。趣味は船釣り。

帯広の冬

その日の北海道十勝地方は、いつにもまして寒さが際立っていた。

2022年1月7日。

日本学生氷上選手権（インカレ）が行われていた帯広市は、最高気温でさえ氷点下4度を下回る酷寒を記録した。

白い息を吐き、手をこすりながら入った、とある飲食店の一室。

冷えきっていた大学1年生の心を解かしたのは、それから約一月半後に世界のトップに立つスケーターからの一言だった。

『つらいなら、神戸においで』

三宅と向かい合っていたのは、2学年上の先輩、坂本花織。

かねて交流のあった「親友」は、屈託のない優しいほほ笑みをむけてくれた。

神戸においで－－。

全く予期していなかったその言葉は、迷い戸惑ってきた人生に大きな光りを与えることになった。

北京五輪女子SPで演技する坂本（2022年2月15日撮影）

話は、少しだけ、過去へとさかのぼる。

2019年12月の全日本選手権で12位となり、初めて強化選手入りを果たした岡山理科大学付属高3時の2020－2021年シーズン。

1学年上の三宅星南や同級生の門脇慧丞、那須夏海らと練習をともにした青春の日々に、希望を見いだしていた。

「今でも、高校時代に4人でずっと練習できたことは、すごくよかったなと思っています。楽しくできたし、伸びたきっかけだと思っています」

しかし、徐々に歯車が狂い始める。

「また、スランプに陥っちゃって…」

この時の挫折の最たる要因は、ケガや取り巻く環境の変化。スケートの技術面ではなかったことが、よけいに焦燥感をつのらせた。

高校最後のシーズンに腰椎分離症を発症。満足に練習ができず、西日本選手権では15位敗退。3年連続での全日本選手権進出を逃した。

「レイバック（スピン）とかも痛かったし、立ってるだけで痛いみたいな。ホントに悔しかったですね」

進路選択の時期。三宅のもとには、県外の強豪校から好待遇の「特別推薦」の案内が届いていたが、断念せざるを得なかった。

「ちょうどコロナウイルスが始まったばっかりの年だったので、やっぱり親とかも人の多い場所に出すのがちょっと心配だったんだと思います」

高校時代と同じ練習環境でできる。

2021年の春。

そんな望みを持って岡山理科大に進学したものの、思ったように大学が保有するリンクを使えず、逆に練習時間が限られるようになっていた。

「もちろん学校にはお世話になっているのですが、（リンクの）貸し切りを使いたくてこの学校に入学したので、ただ通っているだけという状態になってしまって…」

せっかく岡山に残ったのに。

もどかしさ。そして、何もできないやるせなさが、18歳の心に暗い影を落とした。

全日本選手権女子フリーの演技をする三宅（2023年12月24日撮影）

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