後輩の眼差し、ファンの声「自分にもこれだけの…」 苫小牧の夜、河辺愛菜が見た光景

国民スポーツ大会冬季大会の3日目の夜。会場の北海道苫小牧市nepiaアイスアリーナのロビーには人集りができていました。

ファンに囲まれていた選手の1人が河辺愛菜(19=中京大)でした。その日の昼ごろにショートプログラム(SP)に出場し、成年男子フリーの応援を終えたあと。観客から声をかけられる姿がありました。記者はその光景を見ながら、今季の取材エリアでの様子と後輩スケーターの証言を重ね合わせていました。

表現力の向上への試行錯誤が続く今、唯一無二のスケートが見る人へと伝わっていく様子を描きます。

フィギュア

大会3日目の夜、ファンに囲まれた河辺

2024年1月30日午後7時。成年男子表彰式後のアリーナのロビー。

ドアが開閉するたびに、ひんやりとした空気が会場に流れていた。

その開けたスペースに人集りができていた。

「写真、撮ってもらってもいいですか?」

声をかけられたのは、ロビーの端に立っていた河辺愛菜だった。一緒にいた松生理乃とともに、たくさんの観客にサインや写真撮影を求められていた。

GPシリーズフィンランド大会 女子フリーで演技する河辺(2023年11月19日撮影)

GPシリーズフィンランド大会 女子フリーで演技する河辺(2023年11月19日撮影)

最初は驚いた様子を見せていたが、ファンとやりとりを重ねるうちに、笑顔も増えていった。

私はその様子を見ながら、今季の取材エリアでの表情を思い返していた。

涙を流した夏…「自分といえばコレというものを」

2023年8月14日。げんさんサマーカップが開かれた滋賀県大津市は、蝉(せみ)の音が響いていた。

シーズン2試合目に臨んでいた河辺は、フリーで109・79点となった。4本のジャンプで減点となり、演技直後は目を赤くしていた。

約5分の取材では「なぜボレロを滑ろうと思ったのか」を涙ながらに教えてくれた。

樋口美穂子コーチから「ボレロ」を授けられたこと。最初は断ろうかとも思ったこと。「合っていると思う」と背中を押されたこと。迷いながらも挑戦を決めたこと。

「このプログラムをこなせたら、自分でももう1つ大きく成長できると思います。その成長を目指して、この曲を滑っています」

表現力の向上に力を注ぐ理由も語ってくれていた。

「自分の個性、強み、自分といえばコレというものを見つけられたらすごく大きな自信にもつながると思うので。その強みをトップ選手は必ず持っていると感じているので、それを見つけていけたらと思います」

テーマは明確だった。今季に懸ける思いもひしひしと伝わってきた。

ただ、なかなか結果が伴わず、苦しい時間を過ごしているようにも見えた。

GPシリーズスケートアメリカは8位、同フィンランド大会は9位。

GPシリーズフィンランド大会で一夜明け取材に応じる河辺(2023年11月20日撮影)

GPシリーズフィンランド大会で一夜明け取材に応じる河辺(2023年11月20日撮影)

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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。