タンゴから一転、フリー継続「挑戦は大事ですが…」松生理乃が見つけた新たな価値

なぜ新境地となるタンゴではなく、継続に方針転換したのか―。

松生理乃(19=中京大)は今季開始前、タンゴのフリー曲を練習していましたが、最終的に昨季プログラムを継続することを決めました。

1月末の国民スポーツ大会(北海道苫小牧市)。成年女子で2位に入った大会で、その理由を説く姿がありました。決断の経緯に迫りながら、今季の舞台裏にあった意識の変化についても描きます。

フィギュア

国民スポーツ大会冬季大会 成年女子フリーで演技を披露する松生

国民スポーツ大会冬季大会 成年女子フリーで演技を披露する松生

シーズン前はタンゴを練習していた

「タンゴもすごく好きです。やろうと思えば、できなかったわけではないんですけど」

2024年1月30日。フリーを翌日に控える中、松生理乃は穏やかに語り出した。

明かしたのは、今季のフリーで「Nella Fantasia」を継続した理由。オフにはタンゴの楽曲「Adios Nonino」を滑りこんでいたが、本格開幕が迫る9月を迎えるころには昨季のプログラムに戻すと決めていた。

なぜ新境地となるタンゴではなく、継続に舵を切ったのか―。

その理由には、演技にかける思いの一端が詰まっていた。

話は昨年6月へとさかのぼる。

「こんな動きもあるんだ」昨年6月に語っていたこと

梅雨の間のよく晴れた日だった。

愛知環状鉄道の貝津駅から徒歩15分。中京大学アイスアリーナはゆるやかな上り坂を歩いた先にある。

窓から陽が差す中、松生は「氷現者」のインタビューに応じていた。

氷現者のインタビューで色紙に「心に届く演技を」と書き込んだ松生

氷現者のインタビューで色紙に「心に届く演技を」と書き込んだ松生

競技人生を幼少期から振り返る取材。その多くは前シーズンを重い言葉で回顧する時間となったが、終盤には明るい声を弾ませていた。

「フリーはすごくイメージを変えています。今までやったことのない系統なんですけど、タンゴなんです」

これまでは持ち前の柔らかなスケーティングを生かすための曲を選んできたが、新たなプログラムを試みていた。

「タンゴは今までやったことない系統で。強い動きはやったことがないから、すごく難しくて。(宮本)賢二先生の振付をまねしても、全然違う動きになっちゃうんですよ。バレエ系は手のほうの傾斜に向かって倒れる動きなんですけど、タンゴは全部逆になるので。あまり強い動きはやったことがなかった分、『こんな動きもあるんだ』と。楽しいなと思います」

苦闘を明かしつつも、表情は明るかった。そこには、新シーズンへの願いも込めていた。

「去年の結果を引きずるのではなく、今はここまで戻りましたというのをお見せできたらなと思います」

不調に見舞われた前シーズンからの復調。それがテーマの1つだった。

シーズン初戦となった7月初旬のみなとアクルス杯(邦和杯)ではタンゴを披露。フリー1位の125・71点をマークし、優勝を収めた。同月末のNHK杯の選考会でも、タンゴの曲を滑った。

大学1年目のシーズンのスタートは、新たなプログラムとともにあった。

シーズン2戦目げんさんは昨季プログラムを披露

その歩みに変化があったのは、シーズン2試合目のことだった。

8月のげんさんサマーカップ。

身を包んだのは、淡い青色を基調とした衣装だった。プログラムを昨季の「Nella Fantasia」に戻していた。

柔らかな曲調に乗せ、伸びやかに滑っていく。ショートプログラム(SP)は10位だったが、フリーでは127・50点で3位に食い込んだ。

その直後の取材。昨季のプログラムを滑った経緯を説いていた。

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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。