【森田真沙也〈下〉】インスタのDM、岡山で語り合った夢…吉田唄菜と駆け抜けた1年

日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。

シリーズ第32弾では、アイスダンスの森田真沙也(20=木下アカデミー)を連載中です。吉田唄菜とのカップル結成1年目となった2023-24年シーズンは、西日本選手権を制し、全日本選手権でも3位表彰台入り。4大陸選手権にも初出場し、日本勢2番目の10位となりました。“うたまさ”コンビは、2026年のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピック(五輪)へ歩みを進めています。

全3回の下編では、吉田との出会いから現在までをたどります。インスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)から始まった2人のストーリー。世界を目指した1年を描きます。(敬称略)

フィギュア

◆森田真沙也(もりた・まさや) 2003年11月16日、京都府京都市生まれ。小2でスケートと出合い、小4から京都醍醐FSCで本格的に競技開始。中2からアイスダンスを始め、岡田和珠とのカップルで2017年から2年連続全日本ノービス選手権2位。2019-2020年シーズンはシングルに復帰。木下アカデミーに加入した2020-2021年から来田奈央とのカップルでアイスダンスに再転向し、同年全日本ノービス選手権優勝。2021年から全日本ジュニア選手権2連覇。世界ジュニア選手権は2022年12位、2023年16位。同年5月から吉田唄菜とカップルを結成し、同10月の西日本選手権優勝、同12月の全日本選手権3位。2024年4大陸選手権10位。同志社大商学部3年。身長165センチ。

吉田のインスタへDMでメッセージ

2023年4月。大学2年になった森田は、競技人生の転換点を迎えていた。2020年から組んだ来田奈央とのカップルを解散し、新たなペアを探していた。

気になっていたのは、同学年の吉田のこと。コーチ陣に相談すると「いいんじゃないか」と背中を押された。

連絡先は知らなかったが、ここは自分で動くべきだと思った。

「こういうのは初めてで、どうすればいいのかよく分からなくて」

思いきって、フォローしていたインスタグラムのアカウントにダイレクトメッセージ(DM)を送った。人づてにLINEや電話番号をつないでもらうのではなく、自分で思いを伝えることにした。

それまで唯一の関わりとして記憶にあるのは、2年半前に京都アクアリーナで開かれた西日本選手権。木下アカデミー京都アイスアリーナが練習会場となっており、森田から声をかけたことがあった。

「ちょうど2020-21年シーズンは、僕がノービス、唄菜ちゃんがジュニアで出場していた時でした。敬語で話しかけたんです。『どうすればアイスダンスはうまくなれますか?』って」

突然の問いかけに対し、吉田は優しく答えてくれた。

「楽しく滑ったらいいと思うよ」

その2年半前のささかやなやり取りを思い出しながら、吉田からの答えを待った。

すぐに返事は返ってきた。「時間をとることはできそう」という旨がつづられていた。3日ほどの候補日の中から日時を決め、2人で顔を合わせることになった。

4月下旬。スケート靴を手に、岡山へと向かった。

岡山でトライアウト「どこまでいきたい?」の問い

JR岡山駅から西へ約1キロ。岡山国際スケートリンクで、初めて一緒に氷に乗った。

森田を指導するキャシー・リードと吉田を指導する有川梨絵が見守る中、ステップやホールドを1つずつ確認した。「ここはやりやすい」「これはやりにくい」と声をかけながら、滑りをすり合わせていった。

練習開始から2時間半ほどがたった頃。有川から「話したいこともあるでしょ」と促されて、2人だけで話し合う時間が設けられた。

横に並びながら、リンクの上をゆっくりと滑る。頬を撫でる風が心地よい。話の流れで、吉田から「どこまでいきたい?」と尋ねられた。

4大陸選手権の公式練習で笑顔を見せる吉田(右)、森田組(2024年1月30日撮影)

4大陸選手権の公式練習で笑顔を見せる吉田(右)、森田組(2024年1月30日撮影)

森田は正直に思っていることを伝えた。

全日本選手権で優勝したいこと。世界のトップ選手たちと競い合いたいこと。いつかは五輪でメダルを取りたいこと。

全日本にすら出たことはなかったが、どれも真剣だった。

吉田も思いは一緒だった。

2人が思い描く道筋は、重なっていた。

「最終的なゴールが一緒だったので、これはいけるんじゃないかなと思いました。滑った時も、ジグゾーパズルのピースとピースが合う感覚があったので、絶対にいけると思いました。これは直感ですが、その時から全日本で優勝できる、世界の舞台でメダルをとれると思いました」

即決だった。

その日のうちに、カップルを組むと決めた。

「毎日が濃すぎて…」世界を目指した“うたまさ”の歩み

“うたまさ”としての歩みは、1日1日が濃かった。

「毎日が濃すぎて、ずっと学んでばかりでした」

吉田と過ごすようになり、たくさんの気付きがあった。

それまでスケーターの滑りを動画で勉強する習慣がなかったが、「あれいいよ」「これもいいよ」と動画を勧められるうちに、日常はあっという間にスケート一色へと染まっていった。

「いろいろな選手を見ることの大切さを実感しました。『この選手はこういうリフトをしている』『これは僕たちもできそうだね』と吸収できることがたくさんあって。表現の方法やフリーレッグの見せ方も見直しました。唄菜ちゃんは姿勢がきれいなので、滑っているだけで勉強になりました」

全日本選手権でリズムダンスの演技をする吉田(後方)と森田(2023年12月22撮影)

全日本選手権でリズムダンスの演技をする吉田(後方)と森田(2023年12月22撮影)

知識や技術の引き出しは、確実に増えていった。そして何より、志の高いパートナーの存在が競技への熱量を高めてくれた。

心に残ったやり取りがある。

本文残り62% (3530文字/5665文字)

岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。