「ようやく僕たちの北京五輪が終わった」911日後のメダル授与式/現地ルポ

2022年北京五輪(オリンピック)フィギュアスケート団体のメダル授与式が8月7日、夏季五輪開催中のフランス・パリで開かれました。

金メダルだったROC(ロシア・オリンピック委員会)のカミラ・ワリエワ(18)がドーピング違反で資格停止処分となり、日本は銀メダルに繰り上がりました。金メダルの米国とともに、約2年半の時をへてメダルを手にしました。

日本は宇野昌磨さん(26)が2023年から決まっていたアイスショーとの日程の兼ね合いで欠席。男子の鍵山優真(21=オリエンタルバイオ/中京大)女子の坂本花織(24=シスメックス)樋口新葉(23=ノエビア)ペアの三浦璃来(22)木原龍一(31)組(木下グループ)アイスダンスの小松原美里さん(32)小松原尊(33)が待ち焦がれた舞台を楽しみました。(敬称略)

フィギュア

フランス・パリで北京五輪フィギュアスケート団体のメダル授与式に臨み、エッフェル塔を背に写真に納まる日本の選手たち(撮影・江口和貴)

フランス・パリで北京五輪フィギュアスケート団体のメダル授与式に臨み、エッフェル塔を背に写真に納まる日本の選手たち(撮影・江口和貴)

手のひらに書いた皆の思い

パリのシンボルといえるエッフェル塔の脇を流れるセーヌ川。その向こう岸に位置するトロカデロ庭園に、日本のスケーター7人がそろった。

現地時間午後5時。晴れの日を祝福する青空が広がり、会場の「チャンピオンパーク」には多くの観衆が集った。

観衆の胸元ほどの高さに設置された壇上に視線が集まる。アナウンスで紹介されると、7人は手を振りながら中央へと歩を進めた。

スクリーンには五輪の演技が映し出され、音楽も北京と同じものが流された。

5時7分。ついに銀メダルをかけられる時が来た。

樋口新葉―

鍵山優真―

坂本花織―

宇野昌磨―

その名がコールされると、周囲のメンバーは手のひらを見せた。

フランス・パリで北京五輪フィギュアスケート団体のメダル授与式に臨む日本の選手たちの指に宇野昌磨の文字が記されていた(撮影・江口和貴)

フランス・パリで北京五輪フィギュアスケート団体のメダル授与式に臨む日本の選手たちの指に宇野昌磨の文字が記されていた(撮影・江口和貴)

指に黒のマジックで文字を書いていた。

「SHOMA」「宇野」「昌磨」-

鍵山が皆の思いを代弁した。

「本当はタオルとか写真とか持ちたかったんですけれど、ダメって言われたので、せめてもの思いです」

三浦璃来―

木原龍一―

小松原美里―

ティム・コレト(小松原尊)―

記念撮影ではペア、アイスダンスの4人がリフトを披露した。

フランス・パリで北京五輪フィギュアスケート団体のメダル授与式に臨み、エッフェル塔を背に写真に納まる日本の選手たち。手前左から坂本花織、樋口新葉、鍵山優真、後方左から小松原尊、小松原美里、三浦璃来、木原龍一(撮影・江口和貴)

フランス・パリで北京五輪フィギュアスケート団体のメダル授与式に臨み、エッフェル塔を背に写真に納まる日本の選手たち。手前左から坂本花織、樋口新葉、鍵山優真、後方左から小松原尊、小松原美里、三浦璃来、木原龍一(撮影・江口和貴)

それぞれが2年半越しの祝福を楽しんだ。

鍵山が時の流れをかみしめた。

「実際にメダルを手にして、ようやく僕たちの北京オリンピックが終わったという、スッキリとした気持ちがあります」

延期された表彰式

911日前の2022年2月8日。北京の夜は冷え込んでいた。

ダウンコートにニット帽、口元にはマスク。招待客が小旗を持って集まるメダル授与式会場で突如、式の延期が発表された。

フィギュアスケート団体で銅メダルを獲得し記念品を手に自撮りする、左から三浦、坂本、小松原美、鍵山、木原、樋口、宇野、小松原尊(2022年2月7日撮影)

フィギュアスケート団体で銅メダルを獲得し記念品を手に自撮りする、左から三浦、坂本、小松原美、鍵山、木原、樋口、宇野、小松原尊(2022年2月7日撮影)

詳細は説明されず、他国に新型コロナウイルス陽性者がいたことなどが想像された。だが、一夜明け、国際オリンピック委員会(IOC)は「法的な理由で延期」と言葉を濁した。

事態はメディアの報道を機に動いた。8日夜に英紙ガーディアンが団体金メダルのROCに、ドーピング検査で陽性反応を示した選手がいたと報じた。翌9日、ロシア有力紙コメルサントはワリエワが陽性反応だったと報じた。

騒動は一気に広がり、「延期」の度合いは予想さえできなくなった。

日本選手団の伊東秀仁団長は「大会期間中にとにかく銅メダルを渡してほしい」と国際オリンピック委員会(IOC)に訴えた。だが、願いはかなわず、帰国後も時間だけが流れた。

チームで勝ち取ったメダル

銅メダルが決まったのはメダル授与式の前日、2月7日だった。

3位で迎えたペアフリー。三浦、木原組が自己ベストの139・60点で表彰台を確定させた。

北京五輪フィギュアスケート団体のペアSPの演技をする三浦(手前)木原組(2022年2月4日撮影)

北京五輪フィギュアスケート団体のペアSPの演技をする三浦(手前)木原組(2022年2月4日撮影)

三浦は演技後に木原へ「怖かった」とささやいた。

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大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。