【吉岡詩果〈上〉】今季限りで現役引退 支えてくれた友と師「やがて大きな花が咲く」

日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。

シリーズ第36弾は吉岡詩果(21=アクアリンクちばSC)が登場。2018年ジュニアグランプリ(GP)シリーズ第2戦オーストリア大会で3位に入った実力者は、山梨学院大の4年生になりました。9月29日に閉幕した関東選手権では5連覇(ジュニアを含めて6連覇)を飾り、大切なシーズンを1歩ずつ進んでいます。

3回連載の上編では集大成と位置付ける今季へ、今の思いに迫ります。(敬称略)

フィギュア

「自信を持って言えるポイントが…」

スケーターとして心がけていることを問われると、吉岡は少し迷いながら切り出した。

「なんだろう…笑顔で滑ることですかね。心がけているというより、小さいころから自然にそうなっていました。そういう曲調が自分も好きで…。たぶんみんなは『これが得意です!』というのがあると思うけれど、私はないから…。何か1つでも自分の魅せられるポイントがあったらいいんですけれど、自信を持ってそう言えるポイントがないです。笑顔は小さいころに1人でリンクの上に立って、最初のポーズを取るのが恥ずかしくて、笑っちゃっていたんです。そこからだと思います。恥ずかしくて笑っていました」

全日本選手権女子フリーで演技する吉岡詩果(2019年12月21日撮影)

全日本選手権女子フリーで演技する吉岡詩果(2019年12月21日撮影)

10月31日で22歳になる。

小学1年生の冬にスケートと出合い、まもなく15年。

最も苦しんだという昨季も、公の場での笑顔は、見る者に成績という枠にくくられないものを届けていた。

大学3年生、ゼミで流した涙

2023年は思い悩む時間が長かった。

それでも、苦しんだからこそ、知れたことがあった。

山梨学院大では箱根駅伝に旋風を巻き起こした陸上部の元監督、上田誠仁の講義を受けていた。ふとした時に、現在65歳になった教授が言っていた。

「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」

山梨学院大での授業で上田誠仁氏がしたため、受け取った吉岡詩果が寮に飾ってきた言葉(本人提供)

山梨学院大での授業で上田誠仁氏がしたため、受け取った吉岡詩果が寮に飾ってきた言葉(本人提供)

吉岡は一言一句を覚えた。

上田は筆を用い、全員の前でその言葉を記した。

吉岡は紙を授業後にもらった。寮へ持ち帰ると飾り、毎日その言葉を見た。

「桜も咲かない時期は下に根を伸ばして、つぼみを咲かせる準備を、たくさん、たくさんするという話でした。準備をたくさんしたら、やがて大きな花が咲く。上田先生からケガをしている時に聞いて『結果が出ない時も、地道に続ければ、いつかは出てくるのかな』と思えました」

上田は笑っていた。

「前から授業の時に、みんなに言っていたぞ」

1年時にも陸上の科目を履修していたが、心に響いたのは、この時だった。

上田のめいのエリー・カムは米国のペア選手。カムは2023年3月、さいたまスーパーアリーナで行われた世界選手権でも来日していた。3年生で上田が担当する科目を履修すると「めいがフィギュアやっているんだよ」という話題をきっかけに、やりとりが増えた。

4大陸選手権でのペア表彰式。エリー・カムは前列右(2024年2月3日撮影)

4大陸選手権でのペア表彰式。エリー・カムは前列右(2024年2月3日撮影)

「大学3年生は全日本に出たい気持ちでやってきました。全日本に出られないこともつらかったけれど、練習でしていることが本番でできない。自分でも原因が分からなくて、それがずっと続いていました」

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大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。